テナントの立ち退き料が問題になるケースも多いが…
前回の続きです。
このほか、土地・建物に共通していえるのは、権利を自由に行使できない状態が挙げられます。土地でいえば底地権を持つ地主と借地権者の関係、建物でいえばオーナーとテナントの関係、それらの存在がマイナス要素として認識されます。
例えば、築年数が経過し老朽化したビルにテナントがごく一部残っている場合、いくらテナントビルで賃料収入が得られるとはいえ、よほど立地条件に恵まれているならともかく、それを収益ビルとして購入する買い手はまず見込めません。テナントビルを取り壊し、更地にした上で、別の利用を図るはずです。
そこで問題になるのがテナントの存在であることは、第二章(キホン12「マイナス要素になりうるテナントの問題は「定期借家」で解決する」※書籍参照)でも指摘した通りです。立ち退きの必要性が生じるからです。テナントに立ち退き料を支払わなければならない上に、立ち退き交渉を誰に依頼するかという課題も発生します。
しかもその立ち退き交渉がすぐに済むのか否かは相手次第ですから、先行きの見通しを極めて立てにくいのが現実です。テナントの立ち退きが済むまでに費用や時間がどの程度掛かるのか、なかなか見通せないというのは、買い手にとっては事業上のリスクです。そのため、テナントが残っているという状況は大きなマイナス要素になってしまうわけです。
所有する不動産がどのようなマイナス要素を抱えているのかは、先ほどその必要を指摘した不動産の現状把握で分かります。そこで明らかになったマイナス要素は、できるだけ早いうちに解消を図っておけば、その不動産を売却する時点になってもそれが理由で価格が抑えられてしまうという事態を避けることができます。
自然に進めたい「定期借家」への契約形態の切り替え
不動産を売却する時点でマイナス要素を把握できれば、その段階で対処するからそれでいい、と対応を先送りするのは、得策ではありません。高値売却という目標は一朝一夕に実現できるものではないからです。そこに至るまでの戦略がモノをいいます。
例えば立ち退きの問題に事前に備えるには、立ち退きを求めるのに相応の理由と費用を必要とする普通借家から、賃貸借期間を具体的に定めてその期間終了と同時に立ち退きを求められる定期借家へ、建物賃貸借契約を切り替えておくのがいい、と第二章キホン12では提案しました。問題は、それを具体的にどうやるかです。
すぐにでも不動産を売却しようとするのではなければ、テナントが入れ替わるタイミングをとらえて新しく入居するテナントとの間で定期借家での建物賃貸借契約を結ぶようにすればいいのです。定期借家での契約をある時期から基本型にしてしまえば、普通借家から定期借家への契約形態の切り替えをごく自然に進めていくことができるはずです。
できるだけ早い段階から、戦略的に手を打っておく――。それが、不動産の抱えるマイナス要素を解消し、高値での売却を実現するための鉄則の一つです。