息子にしては、演技が大げさすぎる
大阪府に住む山田一郎さん(仮名・68歳)は、妻に先立たれ、現在は一人暮らしです。年金は月20万円。現役時代から少しずつ貯めてきた預貯金は約1,200万円あり、住宅ローンもすでに完済しています。
ある平日の午前11時ごろ、自宅の固定電話が鳴りました。
「お父さん、僕だけど……」
電話の相手は「僕」とだけ名乗り、立て続けに話し出しました。
「どうしよう……痴漢の疑いをかけられて、相手への示談金として150万円を払わないといけないんだ。今日中に全額払わないと警察に突き出すって言われてるんだけど、まとまったお金がなくて」
激しく動揺している「息子らしき相手」の話を聞いているうちに、一郎さんの中にある違和感が出てきました。
「声は似ているけど、妙に芝居がかっている……」
「お前、なんかちょっといつもと違うな」と一郎さんがたずねると、相手は「動揺してていつも通りの話し方なんてできないよ。本当に緊急事態なんだよ」と大げさにため息をつきます。一郎さんは心の中で「いやいや、うちの息子、こんなに演技派だったかな」と思ったそうです。
「じゃあ、警察に相談してみようか?」
相手の言動に違和感を覚えた一郎さんでしたが、その場で相手を問い詰めるのではなく、まずは話を聞きながら息子本人なのかどうかを確かめようとしました。
痴漢の疑いをかけられていることが本当なら、むしろ警察に相談したほうがいいんじゃないかと一郎さんが助言すると、「警察に行っても疑いが晴れるわけじゃない」「会社に知られたくないから警察には行きたくない」と答えます。
「じゃあ、俺が今からそっちに行くから、場所を教えてくれないか」
一郎さんがそう言うと、これまでスラスラと話していた電話口の相手が急に口ごもりました。演技ではなく、今度は明らかに動揺していたのです。
「お前が本当に困っているなら、今から会いに行くから居場所を教えてくれ。それができないなら、自分でどうにかするしかないぞ」
すると相手は、何も言わずに電話を切りました。
