ある日突然、福岡県警を名乗る電話が
福岡市に住む佐藤和子さん(仮名・72歳)は、夫を亡くしてから一人暮らしをしています。収入は公的年金が年間約240万円。持ち家で住宅ローンはすでに完済しており、これまでコツコツ貯めてきた預貯金は約1,200万円ありました。
ある平日の午前10時ごろ、自宅の固定電話が鳴りました。「福岡県警の者ですが、佐藤さん名義の口座が犯罪に使われています」突然の話に、和子さんは驚きました。
さらに相手は、「このままでは共犯者として扱われる可能性があります」「被害を確認するため、口座のお金を別の口座に移してください」と続けます。指定された金額は、なんと800万円でした。
「そんな大きなお金を動かして大丈夫なのですか?」
和子さんが心配そうに尋ねると、相手は「捜査上必要な手続きです。誰にも相談しないでください」と答えます。
頭に浮かんだ「孫との会話」
そこで和子さんの頭に浮かんだのが、数週間前に聞いた孫の言葉でした。孫の翔太くん(仮名・10歳)は、小学校で行われた防犯教室に参加していました。そのとき、講師として来ていた警察官から、特殊詐欺について教えてもらったそうです。
帰宅した翔太くんは、祖母にこう話していました。
「警察の人が、お金を振り込んでとか、口座のお金を移してとか言ったら、絶対にその場で信じちゃダメなんだって」
「困ったときは、一回電話を切って、家族とか警察に確認するんだって」
翔太くんの言葉が、電話の最中にふと頭をよぎったのです。
「いったん預金額を確認します」と電話を切った
和子さんは「ちょっと預金額を確認してから改めて折り返します」と伝え、電話を切りました。そして、翔太くんの母親である長女に電話をかけました。
事情を聞いた娘が、すぐに警察へ相談したところ、警察からは、警察官を名乗って口座のお金を移すよう求めるのは詐欺の手口だと説明されました。もし和子さんが指示に従って800万円を送金していたら、長年かけて築いてきた老後資金の大部分を失っていた可能性があります。
「電話を切るだけなら、誰でもできそうに思います。でも、あのときは本当に怖くて、相手の言うことを信じそうになりました。孫から聞いていなかったら、どうしていたか分かりません」
和子さんはそう振り返ります。
