「国境の外側」の投資を優先
第一次所得収支の黒字は、円安も一因に2021年から過去最高を更新し続けています。その内訳を見ると、2025年の直接投資収益は26兆2,050億円と証券投資収益の14兆2,304億円を大きく上回っており、企業の海外事業から収益の割合が高まっています。問題は、直接投資収益のうち海外拠点の事業拡大に充てられる「再投資収益」が約半分(11兆2,150億円)を占め、国内に還流していないことです。
こうした構図について、財務省の報告書は以下のように表現しています。
「国境の外側」での投資を優先する行動は、個別企業にとっては合理的な経営判断であったかも知れないが、その結果、日本の「国境の内側」では、
1.設備投資が抑制された結果、国内設備のヴィンテージが上昇し、新しい技術を一体化した設備の活用が遅れる
2.生産性が高い大企業が製造拠点を海外に移転し、これに伴い、大企業から周辺の中堅・中小企業へのイノベーション効果の波及が滞った
ことなどから、生産性や賃金が低迷したと考えられる。
日本国内の投資先としての魅力の乏しさは、他のデータにも表れています。財務省の報告書で紹介されている「対内直接投資残高対GDP比の国際比較」という表は衝撃的です(図表2)。
日本の対内直接投資残高の対GDP比は経済協力開発機構(OECD)加盟国で最下位、国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計では198か国・地域中196位で北朝鮮(195位)の下になっており、日本よりも低い国はネパールとバングラデシュしかありません。この背景としては、(1)成長性・収益性で見た事業環境が見劣りすることや、(2)グローバル人材の不足を含め英語で事業を行える環境が十分に整備されていないことが指摘されています。
財務省はこれらの問題に対する処方箋として、
1.新陳代謝の促進・労働移動の円滑化による生産性向上
2.人的資本への投資、技術の開発・活用
3.国内投資・対内直接投資の促進
4.財政健全化
などを挙げています。
そして、「我が国が抱える人口問題や熾烈な国家間競争を踏まえれば残された時間は少ないが、改革を着実に実施し、市場経済のダイナミズムを強化すれば、競争力のある日本経済を取り戻すことは十分可能である」と主張しています。
このように、国際収支は単に海外の取引を記録した統計ではなく、丹念に分析すれば経済の実像を外から映す鏡のように用いることができるのです。
安田佐和子
経済アナリスト
ストリート・インサイツ
代表取締役
【注目のセミナー情報】
【財務戦略】10月22日(木)
1,000社超の融資支援実績を持つプロが解説!
旅費・役員賞与を活用して「キャッシュを最大化」する方法
【実物資産】10月24日(土)
「日本刀投資」は他の実物資産と何が違う?
希少性・鑑定・保存状態…「価値」を見極め方を解説
【不動産オーナー向け】10月29日(木)
<会員限定セミナーの特別版を一般公開>
金利上昇局面の今こそ知っておきたい!
「不動産×金融資産」の最適バランスと投資税務
【関連記事】
■月20万円もらえるはずが…45歳・サラリーマン「ねんきん定期便」に抱いた違和感。「年金ルール」知らずにそのまま20年…65歳で受け取ることになる年金額に唖然「何かの間違いでは?」
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】



