職人の夫と家計を守る妻…夫婦で支え合った半世紀
田島正男さん(74歳)は、地方の公営住宅で一人暮らしをしています。若いころに大工として独立し、長年、住宅の新築やリフォームなどの仕事を請け負ってきました。
20代で結婚した妻の和子さん(仮名)とのあいだには3人の子どもを授かり、決して裕福ではありませんでしたが、にぎやかな家庭を築いてきました。
正男さんは腕のいい職人で、仕事の依頼に恵まれていたものの、経営者としてお金を管理するのは得意ではありませんでした。仕事仲間との飲み会や付き合いも多く、稼いだお金は気前よく使ってしまうタイプだったのです。
一方、妻の和子さんは、そんな正男さんとは対照的な性格でした。結婚当初は専業主婦として家事や育児を担っていましたが、子どもたちが成長し、教育費が嵩むようになると家計を助けるために働きはじめました。いくつかの仕事を経験したあと、40代で生命保険の外交員として働くようになります。子どもたちの進学費用や、夫婦の老後に備えたお金を準備してきたのも和子さんです。
長年自営業だった正男さんの老齢年金は、月9万円ほどしかありません。持ち家を所有していなかった夫婦は、現在正男さんが一人で暮らす公営住宅へ転居。和子さんの年金や、それまでの蓄えを取り崩しながら暮らしていました。
そんな二人の生活が大きく変わったのは、和子さんが肺がんと診断されたときのことです。治療によって一時は病状が落ち着いたものの、和子さんは自分の人生の残り時間を意識するようになりました。
それからは、子どもたちの家族を誘って年に4回ほど旅行へ出掛けるようになります。温泉旅館に泊まったり、観光地を巡ったり、みんなで食事を楽しんだり、和子さんは、孫たちに囲まれて過ごす時間をなにより楽しみにしていました。
ところが、がんの転移が発見され、2年前、和子さんは69歳で亡くなります。亡くなる少し前、和子さんは自分が契約している生命保険の保険証券が入ったファイルと、担当者の連絡先を正男さんに伝えました。