「母の笑顔が見たくて」61歳娘が欠かさない日曜日の習慣
61歳の由紀子さん(仮名)は、89歳の母・澄江さん(仮名)が暮らす介護付き有料老人ホームを、毎週日曜日に訪ねています。
澄江さんが施設に入居したのは約1年前。それまでは一人暮らしをしていましたが、足腰が弱くなり、転倒への不安も増えたため、本人と家族で相談して入居を決めました。
入居当初、澄江さんは慣れない生活に戸惑っていたそうです。
「家に帰りたい」「ここでは好きなものも食べられない」
面会のたびにそうこぼす母親を見て、由紀子さんは何か楽しみを作ってあげたいと考えました。
そこで思いついたのが、母親の好きな和菓子を持っていくことでした。
澄江さんは昔から甘いものが好きで、特にどら焼きが大好物。由紀子さんが子どもの頃には、買い物帰りに母親がどら焼きを買ってきて、親子でお茶を飲みながら食べた思い出もあります。
「お母さん、これ好きだったでしょう」
初めて差し入れた日、澄江さんはうれしそうに笑ったといいます。
「そうそう、このお店のがおいしいのよ。よく覚えていたね」
その姿を見て、由紀子さんも安心しました。
以降、面会の際にはどら焼きやカステラ、プリンなどを持参するようになりました。施設では差し入れを事前に職員へ確認する決まりがあり、当初はその場で食べる分に限って認められていたそうです。
「母が喜んでくれるのがうれしかったんです。施設に入ってから、私にできることは少なくなった気がしていましたから」
ところが入居から半年ほどたった頃、澄江さんの食事の様子に変化が現れました。食事中にむせることが増え、以前よりも食べ終わるまでに時間がかかるようになったのです。
施設では医療職とも相談し、食事の形態や食べる際の姿勢を見直していました。
由紀子さんも職員から説明を受けていましたが、母親が面会時に元気そうに話していたこともあり、食べ物への注意が必要になっていることを十分には実感できなかったそうです。
ある日、由紀子さんはいつものようにどら焼きを持参しました。
すると職員から、これからは差し入れを持ってこないようにしてほしいと告げられたのです。
