「今日は何もしなくていいんだ」団地へ移って変わった休日
引っ越して最初の日曜日。朝食を終えた和夫さんは、しばらくテレビを見たあと、落ち着かなくなりました。
「今日、何かやることあったっけ?」
美智子さんは「ないんじゃない?」と答えます。
庭はありません。2階の雨戸を確認する必要もなく、使っていない部屋を掃除することもありません。
「それで夫が『今日は何もしなくていいんだ』って。なんだか変な感じでしたね」
美智子さん自身にも変化がありました。
掃除する場所が減ったため、午前中に家事を終え、夫婦で近所を歩く日が増えたのです。スーパーへ行き、そのまま喫茶店に寄る。別の日には図書館まで足を延ばします。
内閣府の同調査では、高齢者が住まいや地域について重視する条件として「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が61.4%、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」が54.1%となっています。外出目的でも「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「散歩」が43.4%を占めました。
もちろん、団地暮らしにも一戸建てとは違う制約があります。
以前より収納は少なくなり、家具や荷物はかなり処分しました。集合住宅のため、周囲への音にも気を配ります。
それでも美智子さんは、「もう一軒家には戻れないと思う」と話します。
「一軒家が嫌だったわけじゃないんです。子どもを育てていたころは、あの家でよかった。でも今の私たちには、広い家を持っていることより、家のことを考えなくていい時間のほうがうれしいんです」
和夫さんも同じでした。
以前は休日になると、ホームセンターへ肥料や補修用品を買いに行くことも珍しくありませんでした。今は「今日はどこへ行こうか」と考えます。
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、夫婦のみの世帯は31.8%。また、65歳以上の人だけで構成される世帯は62.3%に達しています。
家族構成が変われば、住まいに必要な役割も変わります。子育て中には便利だった部屋数や庭も、夫婦2人になれば、管理する対象になることがあります。
持ち家を維持することにも、公営住宅や民間賃貸へ住み替えることにも、それぞれ費用や条件があります。大切なのは住宅の広さや所有形態だけで判断するのではなく、そこで暮らすために必要なお金、時間、体力まで含めて考えることです。
年齢とともに変わるのは、体力や家計だけではありません。「家に何を求めるか」もまた、家族構成や生活の変化に合わせて見直していくことができます。
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