「行けないんじゃなくて、疲れるの」82歳母が話した変化
その日の午後、親子は車でスーパーへ出かけました。芳子さんは魚や野菜をかごに入れながら、「こういうの、久しぶりに買うわ」と笑います。
「だったら宅配を頼めばいいじゃない」
健司さんが言うと、母は少し考えてから答えました。
「そこまで困ってるわけじゃないのよ。行けないんじゃなくて、行って帰ってくると疲れるの」
健司さんは、その言葉で母が「元気」と言い続けていた理由が少し分かったといいます。
自分で食事を用意できる。近所なら一人で出かけられる。通院も一人でできる。母にとって、それは確かに「元気」でした。
内閣府の同調査では、日常生活について「自分で食品・日用品の買物をしている」と答えた高齢者は75.5%、「自分で食事の用意をしている」は65.9%でした。一方、こうした活動には年齢による違いもみられ、女性では自分で買い物をする割合が年代が高くなるほど低下しています。
健司さんは「もう一人暮らしは無理だ」と話を進めるのではなく、まず母が負担に感じていることを整理しました。
芳子さん自身が困っていたのは、食事を作ることより、食材を買って持ち帰ることでした。
そこで、米や飲料、調味料など重いものは宅配を利用。生鮮食品はこれまで通り移動販売も使い、健司さんが帰省したときには車でまとめて買い物へ行くことにしました。
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち単独世帯は32.7%。1986年の13.1%から大きく増えています。また、65歳以上の人だけで構成される世帯は62.3%を占めます。
高齢者の一人暮らしそのものが、直ちに支援を必要とする状態を意味するわけではありません。一方、内閣府の調査では、住んでいる地域について「日常の買い物に不便」と答えた人が23.9%、「医院や病院への通院に不便」が23.8%、「交通機関が高齢者には使いにくい、または整備されていない」が21.5%でした。
病気やけがと違い、「以前より買い物が疲れる」「料理の回数が減った」といった変化には、本人も家族も気づきにくいことがあります。
電話で体調を尋ねるだけでなく、食事や買い物、通院など、日常生活を具体的に確認すること。離れて暮らす高齢の親の生活を考える際には、「元気かどうか」だけでは見えない変化にも目を向けることが大切です。
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