(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢になっても、住み慣れた自宅で一人暮らしを続ける人は珍しくありません。元気に生活しているように見えても、買い物や掃除、郵便物の整理など、以前は難なくできていたことが少しずつ負担になる場合があります。離れて暮らす家族には、そうした小さな変化が見えにくいこともあります。

「できなくなったわけじゃない」母が息子に話した本音

その日、浩一さんは母に「一人暮らしはもう無理なんじゃないか」とは言いませんでした。代わりに、積み上がった郵便物を一緒に整理しました。

 

公共料金のお知らせ、マンションの管理組合からの書類、通販のカタログ。急いで対応しなければならないものはありませんでした。

 

「これ、捨てればいいじゃない」

 

そう言う浩一さんに、和子さんは「あとで読もうと思って置いていたの」と答えました。

 

掃除について尋ねても、「できないわけじゃない」と言います。ただ、以前なら午前中に掃除機をかけ、そのまま買い物へ行っていたところ、最近は掃除をすると疲れてしまい、外出は翌日に回すことが増えていました。

 

「一個ずつならできるのよ。でも、全部やると疲れるの」

 

その言葉を聞いて、浩一さんにも状況が理解できました。

 

母は突然、生活できなくなったわけではありません。一つひとつの家事や買い物は自分でこなせても、それを毎日繰り返す負担が以前より大きくなっていたのです。

 

内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、高齢者の主な外出目的は「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%。年齢別では、80~84歳で「通院」と回答した割合が男女とも高くなっています。日常生活を続けるうえで、買い物や通院といった外出環境は重要な要素です。

 

浩一さんは母と相談し、すぐに同居や施設入居を考えるのではなく、まず生活の負担を減らすことにしました。

 

宅配は曜日を決め、注文した物を冷蔵庫に貼った紙に書く。浩一さんも以前より頻繁に顔を出し、重い物の片付けや書類整理を手伝います。

 

さらに、今後困ることが増えた場合に備え、地域包括支援センターなどにも相談できることを確認しました。

 

内閣府の同調査では、電球交換や庭の手入れなど日常生活の作業を一人でできなくなった場合、同居家族以外で頼れる相手として「別居の家族・親族」を挙げた人は63.9%でした。一方、「頼れる人はいない」という回答も11.1%あります。

 

数週間後、浩一さんが再び訪れると、玄関の買い物袋はなくなっていました。

 

「別に、あんたが毎週来なくても大丈夫よ」

 

母はそう言いましたが、そのあと「でも、来るなら日曜日がいいかな」と付け加えました。

 

一人暮らしを続けられていても、家事や買い物の負担は少しずつ大きくなっていることがあります。玄関にたまった数個の買い物袋は、浩一さんが母の暮らし方の変化に気づく、最初のきっかけになりました。

 

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