(※写真はイメージです/PIXTA)

退職後は、通勤や子育てを前提に住む場所を選ぶ必要がなくなります。その一方、年齢を重ねれば、買い物や通院のしやすさも無視できません。「好きな場所で暮らしたい」という希望と、この先も生活を続けられる利便性。その両方を考え、70代になってから住み替える人もいます。

「本当に幸せそうだね」遊びに来た娘が気づいた夫婦の変化

引っ越して間もないころ、修一さんは毎日のように海まで歩きました。

 

「最初は『旅行に来たみたいだね』と言っていました。朝起きて、今日は海まで歩こうかって。それだけで予定になるんです」

 

以前も散歩はしていました。ただ、自宅周辺を決まったコースで歩き、帰宅するだけの日が多かったといいます。

 

今は海沿いを歩き、帰りにパンを買う。天気がよければベンチでコーヒーを飲む。由美子さんが一人で商店街を見て回る日もあります。

 

内閣府の同調査では、高齢者が外出する主な目的として「近所のスーパーや商店での買い物」が80.4%、「通院」が69.9%だった一方、「散歩」も43.4%に上りました。また、現在の地域で不便に感じることとして「日常の買い物」を挙げた人は23.9%、「通院」は23.8%、「交通機関」は21.5%でした。

 

夫婦が海辺の景色と同じくらい重視した「歩いて生活できること」は、移住後の暮らしにもつながっています。

 

もちろん、生活費が大きく減ったわけではありません。

 

マンションでは管理費や修繕積立金が必要です。総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、可処分所得が月22万1,544円に対し、消費支出は26万3,979円。

 

由美子さん夫婦も、旅行や家電の買い替えなど臨時の支出があれば、貯蓄を使うことがあります。それでも、「お金を使って特別なことをしなければ楽しめない」という感覚は以前より薄くなったと由美子さんは話します。

 

夏に子どもたちが遊びに来たとき、家族で海沿いを散歩しました。そのとき、娘から言われたのが「2人とも、本当に幸せそうだね」という言葉でした。

 

「自分たちではそんなふうに考えていなかったんです。でも夫と毎日のように『今日は海がきれいだった』『夕方は涼しかった』って話している。それを見て、そう思ったみたいです」

 

海辺に移ったから、老後の不安がなくなったわけではありません。今後、体力が落ちれば生活の仕方も変わるでしょう。

 

だからこそ夫婦は、景色だけで移住先を決めず、駅や買い物、医療へのアクセスを確認しました。

 

「昔は海を見るには旅行に行かなきゃいけなかったでしょう。今はスーパーへ行くついでに見られる。それが一番変わったことかもしれません」

 

70代で始めた新しい暮らしは、特別な予定を増やしたというより、夫婦にとって何でもなかった一日を少し楽しみにできるものへと変えていました。

 

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