「来てほしいだけだよ」娘のひと言で気づいた思い込み
電話の向こうで、香織さんはしばらく黙っていました。
「どういうこと? 何か嫌だった?」
「嫌なんじゃないよ。ただ、行くたびに何か用意しないといけないでしょう。誕生日ならまたお祝いも必要だし」
恵美子さんがそう答えると、香織さんは驚いた様子で言いました。
「別に、何も持ってこなくていいよ。来てほしいから呼んでるだけだよ」
恵美子さんは、その言葉にすぐには返事ができませんでした。
振り返れば、香織さんから「これを買ってほしい」「この金額を出してほしい」と言われたことはほとんどありません。出産祝い以外の援助の多くは、恵美子さん自身が申し出たものでした。
それでも、最初にまとまったお祝いをしたことで、「次も同じくらい何かしなければ」と自分で基準を作っていたのです。
「向こうが期待していると思っていたわけじゃないんです。でも、呼んでもらったのに手ぶらでは行けない、前より少ないのもどうなんだろうって。自分で勝手に考えていたんでしょうね」
年金月18万円で持ち家の恵美子さんは、日々の生活に直ちに困っているわけではありません。ただ、今後の住まいの修繕や介護費用などを考えれば、900万円の貯蓄を好きなだけ使えるわけでもありません。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果』によると、65歳以上の単身無職世帯では、月の可処分所得が11万8,465円だったのに対し、消費支出は14万8,445円でした。平均では日々の支出が可処分所得を上回っています。
誕生会には、予定どおり参加することにしました。
ただし、香織さんと相談し、「高額なプレゼントはいらない」という言葉を受け入れ、絵本と小さなおもちゃだけを持っていくことにしています。
「今までは、『次は何をしてあげよう』ばかり考えていました。でも、呼ばれたら顔を見に行くだけでもいいんですよね」
孫に何かをしてあげたいという気持ちと、自分が無理なく続けられる金額は別に考える必要があります。
恵美子さんの場合、娘から求められていた援助を断ったのではありません。「祖母ならこれくらいしなければ」と自分で作っていた負担に、70歳になって初めて気づいたのでした。
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