庭で採れたトマトに枝豆…68歳でかなえた「畑のある暮らし」
「移住したこと自体は、今でも後悔していないんです」
真理子さん(仮名・72歳)は、同い年の夫・康夫さん(仮名・72歳)と4年前、首都圏のマンションから地方へ移住しました。
きっかけは康夫さんの退職です。以前から夫婦で「仕事を辞めたら、土のあるところで暮らしたい」と話していました。
選んだのは、地方都市の中心部から車で20分ほど離れた場所にある中古の一戸建てです。敷地は約80坪。庭の一角には家庭菜園を作れるスペースもありました。
スーパーまでは車で約10分。病院や市役所へ行くにも車が必要ですが、当時は夫婦とも運転しており、不便とは感じませんでした。
「ここなら野菜を作れるね」
入居した春、康夫さんは庭を耕しました。
最初に植えたのはトマト、キュウリ、ナス。翌年には枝豆や大根にも挑戦しました。真理子さんは花壇を作り、季節ごとに花を植え替えました。
夏の夕方、庭で採った枝豆をゆでて食卓に出す。朝起きたらトマトの色を確認する。マンション暮らしではできなかった生活が、夫婦には新鮮でした。
ところが3年目ごろから、少しずつ負担も感じるようになります。特に大変だったのが夏の庭仕事でした。
野菜だけでなく雑草も伸びます。康夫さんが草刈りをしても、数週間するとまた伸びてきます。
ある日、作業を終えて家に入った康夫さんが、「さすがに今日はきつかったな」とソファに座り込みました。真理子さんも思わず言いました。
「これ、あと何年できるかな」
さらに真理子さんは膝の痛みで整形外科へ定期的に通うようになり、自分で運転する機会を減らしていました。買い物も通院も、次第に康夫さんの運転が中心になります。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、高齢者が普段の外出で利用する交通手段は「徒歩」が50.1%、「自分で運転する自動車」が46.6%です。一方、自分で自動車を運転する割合は、男女とも年代が高くなるほど低下する傾向がみられます。
ある日、真理子さんは夫に尋ねました。
「もしあなたが運転できなくなったら、私たちどうするの?」
