「また断るの?」娘からの旅行の誘いで変わったお金の使い方
夫婦が考え直すきっかけになったのは、長女からの誘いでした。
「秋にみんなで温泉行かない? お父さんたちも一緒に」
娘夫婦と孫を含めた旅行です。恵美さんは反射的に「高いから私たちはいいよ」と答えました。
電話を切った後、浩一さんが言いました。
「また断るの?」
「だって、これから何にお金がかかるか分からないでしょう」
「それはそうだけど、これ以上、貯金を眺めていても仕方ないよね」
その言葉が、恵美さんには妙に残りました。
夫婦は初めて、4,700万円を一つの大きな「老後資金」として見るのをやめました。今後の生活費や住宅設備の交換、将来の介護などに備えて確保しておきたい金額を考え、それとは別に、当面5年間で旅行や趣味に使う予算を設けることにしたのです。
夫婦が決めたのは、年間80万円。
使わなければ翌年に繰り越してもいい。ただし、「使わなかったことを成果にはしない」というルールも決めました。
内閣府『令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)』では、60歳以上が今後優先的にお金を使いたいものとして、「自分や配偶者の医療・介護」が47.5%で最も多い一方、「趣味やレジャー(旅行等)」も32.4%に上っています。将来への備えと同時に、現在の楽しみにお金を使いたいと考える人も少なくありません。
恵美さん夫婦は、娘一家との温泉旅行に参加しました。
その後、浩一さんが以前から行きたがっていた北海道旅行も予約。恵美さんは月に一度、友人と少し高めのランチへ行くようになりました。
生活そのものを派手にしたわけではありません。
「今でもスーパーでは値段を見ますよ。でも、前は1万円使うことも10万円使うことも、全部『貯金が減る』で同じだったんです」
4,700万円あっても、将来の支出がすべて予測できるわけではありません。だからといって、不安が完全になくなる日まで支出を先送りすれば、その時々でしかできない経験を逃す可能性もあります。
いくら残すのかだけでなく、何のためなら、いつ使うのか。恵美さん夫婦にとって72歳は、老後資金を「減らさないためのお金」だけではなく、「暮らすためのお金」として考え始めた年になりました。
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