「一人でも安心して暮らせる」シニアマンションへの住み替え
「今日も誰とも話さなかったな、と思ったんです。それが1日だけじゃなかったんですよね」
由美子さん(仮名・74歳)は2年前、約30年暮らした戸建てを売り、シニア向けの分譲マンションへ移りました。
夫とは10年前に死別。娘は結婚して車で1時間ほどの場所に住んでいます。年金は月約17万円で、住み替え後もある程度の預貯金を残すことができました。
以前の家で困るようになったのは70歳を過ぎてからです。
「2階に洗濯物を持って上がるのも面倒になったし、庭の手入れもあります。もし家の中で転んだら、誰が気づくんだろうという不安もありました」
選んだマンションはバリアフリーで、共用部にはコンシェルジュがいます。緊急時に使える呼び出し設備のほか、ラウンジや大浴場、入居者が利用できるレストランもあります。駅やスーパーも徒歩圏内です。
「一人暮らしでも、ここなら安心だと思いました」
実際、住み替えてから生活は楽になりました。階段も庭仕事もなく、重い物はネットスーパーで注文できます。雨の日には外出せず、館内で食事を済ませることもできます。
ただ、以前の家にあったものも少しずつ失われていました。
戸建てに住んでいたころは、朝にゴミを出せば近所の人と顔を合わせました。「今日は暑いですね」「あそこのスーパー、卵が安かったですよ」。数分程度でも話す相手がいました。
月に2回通っていた体操教室も、引っ越しを機にやめました。
新しいマンションでも顔見知りはできましたが、廊下やエレベーターで「こんにちは」と挨拶する程度。ラウンジで催しが開かれていても、一人で参加するのが億劫で足を運びませんでした。
その状態を由美子さん自身は、特に問題だと思っていませんでした。
変化に気づいたのは、春の5連休です。
娘一家は旅行に出かけていました。友人にもそれぞれ予定があります。
初日は掃除をして、午後は買い物へ。翌日は録画していたドラマを見ました。3日目になると外出する用事もなくなります。
夕方、テレビを消したときでした。
「今日、誰とも話してないな」
思い返すと、その日の朝にエレベーターで住人と会釈しただけでした。
内閣府『令和5年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の住宅と生活環境に関する調査)』では、65歳以上で「毎日」人と話す人は72.5%でした。一方、ひとり暮らしに限ると毎日話す人は4割弱にとどまり、ひとり暮らし以外の人の半分程度となっています。内閣府は、ひとり暮らしの高齢者で人と話す頻度が低い傾向が顕著だとしています。
