退職から約1年、妻からまさかの一言
「あなた、私たち離婚しない? もう一緒には暮らせないわ」
そう妻から告げられたのは、退職から1年が経ったころでした。
地方都市で暮らす隼人さん(66歳)は、妻・早紀さん(62歳)と結婚して32年。長年勤めた会社を65歳で退職し、第二の人生を歩み始めたところでした。一方、3歳年下の早紀さんは、週3日ほど近所でパート勤務を続けています。
隼人さんが現役のころは、平日の昼間はそれぞれ別の場所で過ごしていました。ところが、隼人さんが退職すると生活は一変。朝から晩まで、家にいるようになりました。
隼人さんにとっては「リタイアして、ようやく得られた老後」。しかし、早紀さんにとっては自分の生活リズムが崩れていくように感じられました。
隼人さん自身、自分たち夫婦の関係性が良好だとは思っていませんでした。しかし、それでも「このまま2人の生活が続いていく」と考えていました。ところが、妻はそうではなかったのです。
「私たち、一緒にいても楽しくないでしょう? 離れたほうがお互い幸せ。そう思わない?」
早紀さんの表情は穏やかでしたが、その意思は固く、真剣そのもの。隼人さんは、何も言えず、最終的には妻の希望を受け入れました。
「嫌がられながら一緒に暮らすぐらいなら……そう思ったんです」
長年連れ添った夫婦の離婚は、そう珍しいものではありません。厚生労働省「離婚に関する統計の概況(令和4年度)」によると、2010年に離婚した夫婦のうち同居期間が20年以上の割合は21.5%。長年積み重なった夫婦の違和感が、子どもの独立や定年退職などをきっかけに表面化するケースもあります。
隼人さんが直面したのは、まさにそうした「退職クライシス」による離婚でした。
