自分の家庭を築いて、実家へのある種の依存から脱却
Aさんは父が亡くなる直前、両親の反対を押し切って一人暮らしを始め、その後結婚しています。兄のように親との絶縁までは望んでいなかったため実家の近くに住むことにしましたが、家庭を持ったことを機に実家への仕送りはやめました。実家の近くに住んだのは「どこかで自分も親から離れられない一種の依存みたいなものがあったのかもしれない」とAさんは当時を振り返ります。
その後、Aさんは自身の子どもが小学校へ入学するタイミングでローンを組んでマンションを購入。現在のAさんの月収は55万円です。共働きの妻と家計を支え合っていますが、子どもの学年が上がるにつれて、塾代や習い事などの教育費が増え、近年の物価高騰も相まってAさん自身の家計にも余裕はなくなっていきました。
「お金が足りない」母からのLINE
そんなある日、78歳になった母からLINEで連絡が入ります。
「お金が足りないから送金してほしい」
母は元来、お金の使い方が荒い人。自分の使えるお金欲しさに高齢になっても働いていました。使い過ぎたのかと、イラっとしつつも、「仕方ないか……」と3万円を送金しました。しかし翌月も「今月も足りないの」「少しだけ助けて」と当たり前のように連絡が。
「無駄遣いをやめるよう直接いわなければ」とAさんは、次の休日に実家を訪れました。そこでびっくりしてしまいます。部屋に、足の踏み場もないほど日用品が溢れかえっていたのです。
ゴミ屋敷というほどではありませんでしたが、トイレットペーパーや洗剤など、明らかに買い過ぎたもので埋め尽くされている室内。「母は認知症で頭が混乱しているのではないか」と疑ったAさんでしたが、その心配は杞憂に終わります。母はいまも掃除のアルバイトを遅刻等なく完璧にこなし、物忘れもありません。勤め先の指示で受けている病院での検査でも認知機能に一切の異常はなく、頭の回転は明瞭です。
つまり、病気で買い物をし過ぎているわけではなく、「稼いだお金は好きに使い、足りなくなったら息子に出させればいい」という身勝手な計算のもとで出費を重ねていました。
Aさんは、テーブルの上に1通の封筒を見つけます。それは役所から届いた「住民税の督促状」でした。母は、1人の時間を持て余し、外出するたびに物を買って帰る生活を送っていたようです。現在も掃除のアルバイトを続けているものの、稼いだ給料の分だけ帰宅途中に買い物をする一方、自宅に届いた税金の請求を無視して放置していました。
昔から物欲が強かった母ですが、当時は「母が自分で稼いだお金だから」とAさんも深く気にしていませんでした。しかし、「年金だけでは生活できない」と子どもに頼りながら、税金を滞納してまで不要な買い物をやめない姿勢に、「俺をいつまで縛るつもりなんだろう」とAさんはうんざり。
母はAさんの生活状況や気持ちに配慮せず、「困ったときは助け合うのが家族でしょう」と都合のいい主張を繰り返すばかりです。親にとっては「少しの助け」という軽い頼みのつもりでも、子世代にとっては生活を脅かす重い負担となることもあります。母自身が自分の不適切な金銭感覚に気づいていない姿に堪忍袋の緒が切れたAさんは、母との関係を完全に断ち切る決意をしたのです。
家族であっても、破綻した親の金銭管理の穴埋めを子どもが背負い続ける必要はありません。
Aさんの母が滞納した住民税。これには、生活管理の乱れに加えて税金の手続き上の仕組みが関係しています。通常、65歳以上の公的年金にかかる住民税は年金から自動天引きされますが、母のようにアルバイト等の給与所得がある場合、その分の住民税は天引きされず、自宅に届く納付書で納める形式になります。家計管理が崩れ、この納付書を放置してしまい、督促状が届く事態にまで陥ったようです。
親の生活費や滞納分を安易に肩代わりすることは、根本的な解決になりません。まずは家計収支の改善や公共の福祉サービス、要介護認定による支援など、公的な枠組みの活用を優先すべきです。子ども自身の生活と家庭を守るためには、「適切な境界線」を張り、親の過度な依存から距離を置く選択も求められます。
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表
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