「一緒に暮らすなら変えよう」母が息子に伝えたこと
決定的だったのは、ある土曜日でした。
春子さんは友人と昼食に出かける予定でしたが、出かける直前、直樹さんから「今日、夕飯ある?」と聞かれました。
「今日は出かけるから、自分でお願いね」
そう答えながら、春子さんはふと思いました。息子が戻ってきてから、自分は外出するときまで夕食の心配をするようになっていたのです。
その夜、春子さんは直樹さんに話しました。
「一緒に住むのはいいんだけど、お母さん、前みたいに全部はできないよ」
直樹さんは驚いた様子でした。
春子さんが食事や洗濯、帰宅時間を気にしていたことを話すと、「そんなにやってくれなくてよかったのに」と言われました。
「でも、家にいたらやっちゃうのよ」
そこで2人は、暮らし方を決め直しました。
夕食を一緒に食べるのは週に数回。遅くなる日は直樹さんが自分で用意し、洗濯もそれぞれ別にすることにしました。休日も、互いの予定を細かく確認しません。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、60歳以上で子や孫の生活費を「ほとんど負担している」人は6.6%、「一部を負担している」人は18.6%で、合わせて25.2%です。親子が成人後も経済的に支え合うケースはありますが、同居すれば生活費だけでなく、家事や時間の使い方も変わります。
それから、春子さんは以前のように友人との予定を入れるようになりました。直樹さんも休日には自分で買い物や洗濯をしています。
「息子がいる安心感はあります。でも、一緒に住めば何でも楽になると思っていたのは違いましたね」
直樹さんも「実家に戻ったら、無意識に昔の感覚に戻っていたかもしれない」と話しているそうです。
親子であっても、成人して長く別々に暮らせば、それぞれに生活のリズムがあります。同居によって家賃や生活費を分担できたり、何かあったときに助け合えたりする一方、家事や時間の使い方をどちらか一方に合わせれば、新たな負担が生まれることもあります。
高齢になった親と成人した子が再び暮らすとき、「家族なのだから以前と同じように」と考えるのではなく、今の年齢や生活に合わせて役割を決め直すことも必要です。春子さん親子にとって再同居は、昔の親子生活に戻ることではなく、74歳と46歳になった2人に合った暮らし方を新しく作ることだったのです。
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