「また一緒に暮らせるね」15年ぶりに戻ってきた息子
春子さん(仮名・74歳)は、月約16万円の年金で一人暮らしをしていました。住宅ローンを完済した3LDKのマンションに住み、預貯金は約3,200万円あります。
46歳の一人息子・直樹さんが家を出たのは30代前半。それ以来、春子さんは一人で暮らしてきました。
そんな直樹さんから「しばらく実家に戻ってもいい?」と連絡があったのは、前年の秋でした。
勤め先を変えることになり、それまで住んでいた賃貸マンションも更新時期を迎えていました。新しい職場は実家からでも通勤できるため、「急いで次の部屋を借りるより、少し実家に置いてもらえたら助かる」という話でした。
春子さんは迷わず答えました。
「もちろんいいよ。また一緒に暮らせるね」
一人暮らしに不自由していたわけではありません。それでも、夜に物音がすれば不安になることもあり、体調を崩したときには「家に誰かいれば」と思うこともありました。
息子が戻れば安心だし、食事も一人ではなくなる。そう考えると、春子さんは少し楽しみだったといいます。
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯では「単独世帯」が32.7%を占めています。一方、「親と未婚の子のみの世帯」も20.4%あり、高齢の親と成人した子が暮らす世帯も一定の割合を占めています。
直樹さんは毎月5万円を生活費として入れることになりました。
最初のうちは、春子さんも「一人分作るのも二人分作るのも同じだから」と夕食を用意し、息子の洗濯物も一緒に洗っていました。
ところが2ヵ月、3ヵ月とたつうちに、小さな負担が積み重なっていきます。
直樹さんの帰宅は午後9時を過ぎることも多く、春子さんは夕食を温め直します。入浴時間が遅いため、以前なら午後10時には静かになっていた家で、深夜近くまで生活音がするようになりました。
食料品の減りも早くなります。
「生活費を入れてくれているから、お金が大変というわけじゃないんです。でも、自分一人なら夕飯は簡単に済ませる日もあったし、洗濯も毎日はしなかった。いつの間にか、また息子が家にいたころのお母さんに戻っていたんですよね」
