「まだあると思ってた」8年後に判明した親子の認識違い
その事実を拓也さんが知ったのは、自宅購入を考え始めたときでした。住宅ローンや頭金について妻と話しているなかで、8年前の母親の言葉を思い出したのです。
ある日、実家で拓也さんが尋ねました。
「昔、俺のために取っておくって言ってたお金、あったよね」
和子さんは「ああ、あれね」と答えたあと、「もうないよ」と続けました。拓也さんは思わず聞き返しました。
「え、まさか使ってしまったの?」
その瞬間、和子さんの表情が変わりました。
「使ったよ。私のお金だもの」
家電の買い替えやマンション関係の支出、旅行などに使ったことを説明すると、拓也さんは「そっか……」と黙りました。
内閣府『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査』によると、60歳以上で子や孫の生活費を「ほとんど負担している」人は6.6%、「一部を負担している」人は18.6%で、合わせて25.2%です。一方、59.1%は「負担していない」と回答しています。
帰宅後、拓也さんは妻にその話をしました。妻から返ってきたのは、「でも、それってもらったお金じゃないんでしょう?」という言葉でした。
「母は『取っておく』とは言ったけど、『もうお前のものだ』とは言ってなかったんですよね。それなのに、なくなったと聞いて『使ったの?』って。今考えると失礼だったなと思います」
数日後、拓也さんは和子さんに電話をかけました。
「この前はごめん。あのお金を当てにしてたみたいな言い方になった」
和子さんは「いいよ」と答えたあと、「お母さんだって、これから何年生きるか分からないんだから」と笑ったそうです。
和子さんには現在も老後のための預貯金があります。ただし、そこから息子に140万円を改めて渡す予定はありません。
内閣府の同調査では、60歳以上が今後優先的にお金を使いたいものとして、「自分や配偶者等の医療・介護」が47.5%、「趣味やレジャー」が32.4%である一方、「子や孫のための支出」も25.8%となっています。
親が一度は子どものために残しておこうと考えたお金でも、何年もたてば生活や家計の状況は変わります。一方、子どもの側では、以前聞いた話をそのまま覚えていることもあるでしょう。今回の140万円も、和子さんにとってはすでに使い道を変えた自分のお金でしたが、拓也さんのなかでは「いつか母から受け取るお金」のまま残っていました。
家族だからこそ曖昧なままになりやすいお金について、認識を確認しておくことが、思わぬ行き違いを防ぐことにつながるでしょう。
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