「空いてます」初めて参加したマンションの夏祭り
8月に入ったある日、エレベーターで顔見知りの女性から声をかけられました。
「今度の夏祭り、参加します? 去年はいなかったですよね」
マンションでは毎年、お盆前に入居者向けの小さな夏祭りを開いていました。食堂に軽食が並び、夕方には中庭で催しもあるそうです。
洋子さんはこれまで参加したことがありませんでした。例年、そのころには子どもたちが来ていたからです。
「今年は……空いてます」
そう答えると、「じゃあ一緒に行きましょうよ」と誘われました。
当日は同じ階の住人4人とテーブルを囲みました。普段は廊下ですれ違えば挨拶する程度だった人と、以前住んでいた街や孫の話をし、気づけば2時間以上が過ぎていました。
そのうちの一人から、翌週には近所の喫茶店にも誘われます。
「今までマンションの中に知り合いを作ろうと思っていなかったんですよね。ここは住む場所で、楽しいことは家族とするものだと思っていたのかもしれません」
内閣府の同調査では、近所付き合いについて「会えば挨拶をする」と答えた人が84.6%、「外でちょっと立ち話をする」が61.3%、「物をあげたりもらったりする」が47.4%でした。
お盆当日、洋子さんの部屋に子どもや孫の姿はありませんでした。
長女から家族の写真が送られ、長男とは夜に電話で少し話しました。それでも以前のように、「今年は誰も来なかった」と一日中考えていたわけではありません。
午前中はマンションで知り合った女性と買い物へ行き、午後は自室でゆっくり過ごしました。
9月になれば、長女一家が来られるかもしれません。年末には長男一家と会える可能性もあります。
ただ、洋子さんはもう、その予定が決まるまで自分のカレンダーを空けておくつもりはないといいます。
「子どもたちが来てくれるのは、もちろんうれしいですよ。でも、来ない夏があってもいいんだと思えるようになりました」
今年の夏休みは、洋子さんにとって初めて「誰も帰ってこない夏」になりました。
一方で、それまで挨拶だけだった人と食事をし、自分から予定を入れるようになったのも今年の夏です。
家族と過ごす時間が減った分を、無理に別の誰かで埋める必要はありません。それでも、子どもや孫の予定を待つだけだった日々から、自分の予定を先に決める暮らしへ。洋子さんにとって、少し寂しく始まった夏休みは、シニアマンションを「暮らすだけの場所」から、自分の日常をつくる場所へ変えるきっかけになったのです。
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