(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもが独立したあとも、電話をしたり、孫の近況を聞いたりと、親子の付き合いが続く家庭は多いでしょう。ただ、連絡を取る頻度や互いに心地よいと感じる距離は、家族であっても同じとは限りません。子どもを気にかけていたつもりが、いつの間にか負担になっていた――そんなこともあります。

電話をやめて3ヵ月、増えていった夫婦2人の予定

翌朝、和子さんは正志さんに「健太に、しばらく連絡しないでって言われた」と話しました。

 

正志さんは驚きましたが、事情を聞くと、「少し放っておけばいいんじゃないか」と答えます。

 

「向こうには向こうの生活があるんだから。何かあれば連絡してくるだろう」

 

和子さんには、その考え方がすぐには受け入れられませんでした。

 

電話をかけないと決めても、「今日は部活かな」「ちゃんと食べているかな」と気になります。スマートフォンを手に取っては、結局そのまま置く日が続きました。

 

変化があったのは、それから1ヵ月ほど経ったころです。

 

市営住宅の掲示板で、自治会が募集していた日帰りバス旅行のお知らせが目に入りました。以前にも見かけたことはありましたが、「その日に孫が来るかもしれない」と申し込まずにいた企画です。

 

今回は正志さんを誘い、2人で参加することにしました。

 

それをきっかけに、近所の人と立ち話をする機会も増えました。月に一度は夫婦で少し離れた商店街へ出かけ、帰りに喫茶店へ寄るようにもなります。

 

「考えてみたら、予定を聞いてもいないのに『今週は来るかもしれない』って、土日を空けていたんですよね」

 

健太さんから連絡があったのは、電話を控えるようになって約3ヵ月後でした。

 

「元気? 来月ならみんなでそっちに行けそうだけど」

 

以前の和子さんなら、すぐに日程を合わせていたかもしれません。しかし、その日は自治会で知り合った夫婦と出かける予定が入っていました。

 

「その日は予定があるから、次の週なら大丈夫だよ」

 

そう答えると、健太さんは「あ、そうなんだ。じゃあ次の週にしよう」と、それだけでした。

 

和子さんが恐れていたように、連絡を控えたことで親子の付き合いがなくなったわけではありません。以前のように頻繁に電話をすることはなくなりましたが、ときどき健太さんから孫の写真が送られてきます。和子さんも、急ぎでなければ返事を待つようになりました。

 

「『しばらく連絡しないで』と言われたときは、もう嫌われたのかと思いました。でも、そういうことじゃなかったんですよね」

 

築41年の市営住宅は、設備こそ新しくありません。それでも、長く暮らしてきた地域には顔を知っている人がいて、夫婦で出かけられる場所もあります。

 

長男一家がいつ来るかを考えて予定を空けていたころには、目を向けていなかった日常でした。

 

「今度いつ来るの」と尋ねる代わりに、自分たちの予定を先に決める。会える日が合えば一緒に過ごし、合わなければまた次の機会にする。

 

和子さん夫婦にとって長男との距離が元通りになったわけではありません。ただ、以前と同じ関わり方に戻そうとするのではなく、それぞれの生活を優先しながら会える関係へ。長男の一言をきっかけに、家族との付き合い方も、夫婦2人の時間の使い方も少しずつ変わっていったのです。

 

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