朝の散歩が日課に…海辺へ移って変わった夫婦の毎日
移住を決めた夫婦は、長年暮らしたマンションを約3,600万円で売却。新居となる築15年ほどの2LDKは約2,400万円で購入しました。諸費用や引っ越し代、最低限のリフォーム費用を含めても、売却代金の範囲内に収まりました。
広さは以前より小さくなりましたが、独立した子どもたちの部屋を残しておく必要もありません。
「最初は物を捨てるほうが大変でした。45年分ですから。でも、持っていけないとなったら、本当に必要かどうかを考えるようになりました」
移住後、夫婦の生活は思っていた以上に変わりました。
朝は海沿いを30分ほど散歩し、帰りにパンを買う。天気のいい日は少し遠くまで歩き、昼食は家で簡単に済ませます。週に一度は電車に乗って買い物へ出かけ、ときには観光客に交じって地元の店で食事をすることもあります。
以前は退職後の隆さんが「今日は何をしよう」と時間を持て余す日もありましたが、移住してからは散歩だけでも外へ出るようになりました。
一方で、海辺の暮らしには想定外のこともありました。風の強い日は窓を開けにくく、金属製品は以前より傷みやすいため、塩害を意識した手入れも必要です。友人と気軽に会えなくなったことを、由紀子さんが寂しく感じる日もあります。
「全部が快適というわけではなかったですね」
それでも、元の街へ戻りたいと思ったことはないといいます。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、65歳以上の世帯が過去5年間に住み替えた理由として「高齢期の住みやすさ」が挙げられています。また、今後の住み替えで周辺環境について重視する点を見ると、65歳以上の夫婦世帯では「日常の買物などの利便」が上位となっています。
由紀子さん夫婦も、海の見える暮らしを選びながら、日常生活の便利さを手放さなかったことが、移住後の暮らしを支えています。
「若いころだったら、仕事や子どもの学校があって、住む場所を自由には選べなかったでしょう。72歳になってから初めて、どこで暮らすかを自分たちの希望だけで決められた気がします」
年金月28万円で、以前よりぜいたくな生活ができるようになったわけではありません。むしろ外食や旅行の回数を調整しながら、毎月の生活費は年金の範囲を意識しています。
それでも朝、カーテンを開ければ海が見える。散歩へ出れば潮の匂いがする。由紀子さんが長年思い描いていたことが、特別な旅行ではなく日常になりました。
「ここで暮らしてみたかった、という思いを残さなくてよかったです」
仕事や子育てなど、その時々の事情を優先して決めてきた住まいから、これからの自分たちがどう暮らしたいかを基準に選んだ住まいへ。老後になって初めて「住みたい場所で暮らす」という希望を実現したことが、2人にとっての理想の老後につながっているようです。
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