「もう出さない」娘に伝えて変わったこと
数日後、節子さんは美咲さんに電話をかけました。
「孫たちのお金なんだけど、毎月送るのは今年の夏で終わりにしようと思ってる」
突然の話に、美咲さんは驚いた様子でした。
「何かお金が必要になったの?」
「そういうわけじゃないよ。でも私も73歳でしょう。これから自分にいくら必要になるか分からないし、毎月3万円を出すのをずっと続けるのは違うかなって」
美咲さんからは、「急に言われると困る」と返ってきました。
その言葉を聞いた瞬間、節子さんは迷いました。娘が困るなら、もう少し続けたほうがいいのではないか。これまで何度もそう考えて援助を続けてきたからです。
それでも今回は、「夏までは今まで通り出すから、その後は自分たちで考えてほしい」と伝えました。
数ヵ月の猶予を設けたことで、美咲さん夫婦にも家計を見直す時間ができました。上の子の塾は科目数を減らし、夫婦それぞれの固定費も確認。教育費にどこまでかけるのかも改めて話し合い、祖母からの月3万円を前提にしない家計へ切り替えていったといいます。
そして8月、約4年間続いた節子さんの援助は終了しました。
総務省『家計調査報告〔家計収支編〕2025年平均結果の概要』によると、65歳以上の単身無職世帯では、1ヵ月の可処分所得11万8,465円に対し、消費支出は14万8,445円。平均では消費支出が可処分所得を約3万円上回っています。
節子さんも、援助をやめて浮いた3万円をそのまま使うことにはしませんでした。1万円は家電の買い替えや住まいにかかる将来の支出に備えて積み立て、残りは旅行や外食など、自分の楽しみにも使うことにしました。
そして秋には、春に一度断った友人と温泉旅行へ出かける予定です。
援助をやめてから、美咲さんや孫との関係が大きく変わったわけではありません。誕生日にはプレゼントを贈り、一緒に食事をすることもあります。
ある日、美咲さんから、孫が部活動の大会で活躍したという連絡が届きました。
「前だったら、『何か必要なものはない?』って聞いていたと思うんです。でも、そのときは『よかったね』って。それで十分だったんですよね」
「前は頼られるとうれしかったんです。必要とされているような気がして。でも、もう頼られなくてもいいかなって思えるようになりました」
子や孫への援助は、家族を思って自分から始めることも多いでしょう。一方で、何年も続けば、始めたときとは家計も家族の状況も変わります。
節子さんの場合、援助を終えたことで生まれたのは、単なる月3万円の余裕ではありません。年金が入ればまず家族のために取り分ける生活から、自分に必要なものや、これからしたいことを考えて使い道を決める生活へ。長く続けてきた役割から離れたことで、自分のお金を自分のために使ってもいいと思える余裕が生まれたのです。
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