夫の退職から3年…「一人で暮らしてみたい」と切り出した妻
「私、一度一人で暮らしてみたいんだけど」
由美さん(仮名・68歳)が夫の正夫さん(仮名・70歳)にそう切り出したのは、昨年の秋でした。
結婚して43年。子ども2人はすでに独立し、夫婦は住宅ローンを完済した3LDKのマンションで暮らしていました。
由美さん自身は65歳までパート勤務を続け、現在の年金は月約9万円。正夫さんの年金と合わせた世帯の年金収入は月約21万円です。夫婦の預貯金は約2,700万円ありました。
大きなきっかけになったのは、正夫さんの退職でした。
現役時代の正夫さんは朝早く家を出て、帰宅するのは夜。由美さんも仕事や友人との予定があり、それぞれ別々に過ごす時間がありました。
ところが正夫さんが67歳で仕事を完全に辞めると、ほぼ一日中家にいるようになります。昼食も毎日自宅です。
「今日のお昼、何?」
正夫さんに悪気があるわけではありません。それでも由美さんは、その一言を聞くたびに、昼食の時間から逆算して予定を考えるようになりました。
友人と出かける日には「今日はお昼いらないからね」と伝え、夕方が遅くなりそうなら夕食をどうするか考えます。
一方、正夫さんにも不満がありました。由美さんが掃除を始める時間や、テレビを見ながら「音が大きい」と言われることが気になるようになっていたのです。
「嫌いになったわけじゃないんです。でも、朝起きてから寝るまで同じ空間にいると、細かいことばかり気になるようになってしまって」
ある日、由美さんは友人との昼食から帰る途中、不動産会社の前で単身者向けの賃貸物件を見つけました。
1DK、家賃5万円台。そのとき初めて、「離婚しなくても、別々に暮らすことはできるのでは」と考えたといいます。
厚生労働省『令和6年人口動態統計』によると、2024年の離婚件数は18万5,904組でした。このうち同居期間20年以上の離婚もみられ、長い結婚生活を経た後に夫婦関係を見直すケースがあります。
ただ、由美さんが望んでいたのは離婚ではありませんでした。
「別れたいんじゃないの。ただ、一度それぞれで暮らしてみたい」
正夫さんは最初、「そこまでする必要があるのか」と驚きました。それでも何度か話し合い、まずは1年間、別々に暮らしてみることになりました。
