もう一つの問題、「1年」をめぐる税金
今回の取引を税金という視点から見ると、さらに興味深い問題があります。
それが「1年」という保有期間です。米国では、資産を1年を超えて保有して売却した場合、原則として長期キャピタルゲインとして扱われます。
一方、1年以下の保有で売却した場合は短期キャピタルゲインとなり、通常の所得税率が適用されます。
今回、ウォルター氏側がレイカーズを売却するタイミングによっては、この違いが税負担に影響する可能性があります。
もっとも、ウォルター氏のレイカーズ持分は一度に取得されたものではありません。2021年には、当時の少数オーナーだったフィリップ・アンシュッツ氏から、ウォルター氏とトッド・ベーリー氏が合わせて27%の持分を取得しました。ウォルター氏はその一部を保有していました。
その後、2025年にバス家から支配権を取得しています。したがって、今回売却される持分には取得時期の異なる部分が含まれており、それぞれについて保有期間を考える必要があります。
数十億ドル規模の利益にかかる税金
仮に今回の取引で、ウォルター氏側に30億ドルのキャピタルゲインが発生したとします。
長期キャピタルゲインについて、連邦税20%、純投資所得税3.8%、カリフォルニア州税13.3%を単純に合算すると、約37.1%になります。30億ドルの利益にこの税率を当てはめれば、税額は約11.1億ドルです。
一方、短期キャピタルゲインとして連邦税37%、純投資所得税3.8%、カリフォルニア州税13.3%を単純合算すると54.1%となり、税額は約16.2億ドルになります。
その差は約5億ドル。日本円にすれば数千億円規模です。もちろん、これはあくまで単純計算です。
実際の税額は、取得原価、売却する持分、取引費用、所得状況などによって変わります。また、連邦税と州税を単純に足した数字がそのまま実効税率になるわけでもありません。したがって、実際の税負担を判断するには、米国税務の専門家による個別の計算が必要です。
それでも、数十億ドル規模の利益が発生する取引では、「いつ売却するか」という時間の違いだけでも、税金に大きな差が生じる可能性があります。
ドジャースと大谷翔平選手への影響は?
そして、ウォルター氏をめぐる問題で最も注目されるスポーツ資産が、もう一つあります。ロサンゼルス・ドジャースです。
ドジャースには大谷翔平選手をはじめ、多くのスター選手が所属しています。さらに、ドジャースは選手契約における繰延べ払いでも知られています。
大谷選手の契約をはじめ、将来にわたって巨額の支払いが発生する契約が存在するため、球団の財務を考えるうえでは、今後のキャッシュフローも重要です。
米スポーツメディアのジ・アスレチックは、2028年以降、ドジャースが8人の選手に対して合計10億ドル規模の支払いを抱えると報じています。そのため、ウォルター氏の金融事業に問題が生じた場合、ドジャースの経営に影響が出るのではないかとの見方も出ています。
ただし、ここについても現時点では過度に心配する必要はありません。ドジャースのスタン・カステン会長は、球団は売却対象ではないと明言しています。また、ウォルター氏の持ち株会社も、ドジャースやF1のキャデラックチームを売却する予定はないとしています。つまり、レイカーズの売却がそのままドジャース売却につながると考えるのは早計です。
スポーツチームは「金融資産」になった
今回のレイカーズ売却を見ていると、米国におけるプロスポーツの位置付けが大きく変わったことが分かります。
1979年、ジェリー・バス氏が6750万ドルで購入したレイカーズ。それが現在では125億ドルという価値を持つまでになりました。もちろん、1979年の6,750万ドルと現在の125億ドルを単純に比較することはできません。
しかし、約半世紀の間にNBAの市場規模が拡大し、放映権やスポンサー収入、グッズ販売などのビジネスが巨大化したことで、球団そのものが極めて価値の高い金融資産になったことは間違いありません。
富裕層や投資会社にとって、プロスポーツチームは「好きだから持つ」だけのものではなくなっています。将来的な資産価値の上昇を期待できる投資対象であり、ブランドやメディア事業を含む巨大な金融資産なのです。だからこそ、今回のレイカーズ売却には125億ドルという値段が付いたのでしょう。
「レイカーズ1球団で2兆円」の意味
日本のスポーツファンからすると、125億ドルという金額は簡単には実感できません。「日本のプロ野球12球団をすべて買ってもお釣りがくるのではないか」と思わせるほどの金額です。
しかし、今回の取引が示しているのは、単に「米国のスポーツチームは高い」ということだけではありません。そこには、スポーツビジネス、投資会社、保険会社、プライベートクレジット、巨額融資、規制当局、キャピタルゲイン課税という、現代の米国金融市場を象徴する要素が詰まっています。
繰り返しますが、レイカーズは1979年には6,750万ドルでした。それが約47年を経て125億ドル。
そして今、その資産をめぐって、オーナー交代だけでなく、米当局による調査とバス家の内部対立まで起きています。さらに、売却によって生じる可能性がある巨額のキャピタルゲインには、数億ドル、場合によっては10億ドルを超える規模の税金が発生する可能性があります。
今回のレイカーズ売却は、華やかなNBAの世界の話に見えます。しかし、その舞台裏で動いているのは、2兆円という巨大な金融資産です。そして、その資産をめぐって、スポーツ、金融、家族、規制、税金が複雑に絡み合っています。
はたして、125億ドルの取引は最終的にどのような形で決着するのでしょうか。そして、ウォルター氏をめぐる米当局の調査は、レイカーズだけでなく、ドジャースを含む巨大スポーツ資産にどこまで影響するのでしょうか。「レイカーズが2兆円で売却される」というニュースの裏側には、スポーツチームが巨大な金融資産へと変貌した米国の現在が映し出されています。
奥村 眞吾
税理士法人奥村会計事務所
代表
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