孫の誕生を機に決まった、二世帯住宅の建設
息子の結婚から7年後、待望の孫が誕生します。Aさん夫婦も70歳を迎えて仕事は完全に引退し、年金暮らしになったことで、二世帯住宅の話が再び持ちあがりました。共働きを継続したい息子夫婦も、子育てのサポートを期待して今度は同居を承諾します。
二世帯住宅には、大きくわけて「完全分離型」「部分共有型」「完全共有型」の3つのタイプがあります。「完全分離型」はすべての設備(キッチン・風呂・トイレ・玄関など)が2つずつあり、プライバシーが保てる反面、建築費用が高額になります。一方、玄関や風呂などだけを共有する「部分共有型」や、部屋以外をすべて共有する「完全共有型」は費用を抑えやすいのが特徴です。
Aさん夫婦は、予算を抑えるためにも共有部分を多くしたいと希望しますが、息子夫婦はなるべくわけたいと主張し、意見が対立します。
話し合いの結果、建築費用の約3分の1をAさんの退職金等から頭金として出し、残りを息子夫婦が住宅ローンで組む形に決定します。お互いの妥協点として、「玄関と風呂は共有する部分共有型」とすることで合意に至りました。
生活習慣のズレ、蓄積していくストレス
二世帯同居がスタートした当初は、お互いに気を遣いながら過ごしていました。しかし、次第に生活習慣の違いが大きなストレスへと変わっていきます。
Aさん夫婦はもともと朝型。特に、高齢になると夜は早く寝て、朝は5時ごろから活動をスタートします。対して、息子夫婦は仕事の都合で帰宅が遅くなることも多く、風呂に入るのが日付が変わる前後になることや、就寝も深夜になることが少なくありません。
玄関のカギを開ける音やドアの開閉音、シャワーやバスタブの音など、事前に理解して同居を始めたはずでしたが、すれ違う生活リズムは徐々に精神的な負担となっていきます。
元来、几帳面な性格で眠りの浅いAさんは、小さな物音でも起きてしまうことも。二階の廊下を歩く足音、トイレを流す音、階段を下りて風呂へ向かう音など、最初は「慣れれば気にならなくなるだろう」と考えていたものの、どうしても慣れることができません。
何度か息子夫婦に改善を申し出たものの、「気をつけている」という返事に留まります。同居から1年が過ぎるころにはお互いの部屋への行き来も減り、別居していた時期よりも会話が少なくなっていきました。
息子不在のなか、迎えた義娘の限界
同居を始めて2年が経過しても生活リズムに慣れないAさんは、心身ともに疲弊していきます。繰り返し生活音について指摘されたことで、ついに息子夫婦側の我慢も限界が近づいていきます。
Aさんは、慢性的な睡眠不足から次第に心のゆとりを失っていきました。生活音を巡って家全体が気まずい空気になった夜、義娘が話し合いの場を設けます。その日、息子は出張中でした。
「お義父さんたちに気を遣って、お風呂の入る時間や帰宅時の音は最小限にしようとすごく気を遣っています。これ以上は無理です」
義娘の言葉に対し、Aさんは「なんて生意気な口を利くんだ」と感じました。そして思わず「これ以上寝不足にされるのはうんざりだ! この家から出て行ってくれ!」といってしまいます。さらに、「こんなことになるなら、二世帯同居をしなければよかった」とまで漏らします。その一言に義娘は堪忍袋の緒を切らしたようです。義娘は「……出ていくのはあんたらのほうでしょうが!」と叫びました。
Aさん夫婦もびっくりでしたが、義娘自身も自分の言葉に驚いたのか、「すみません……」と小さく呟いて、息子を連れてその日は家に帰りませんでした。あとから息子から連絡がありましたが、近くのビジネスホテルに泊まったそうです。
息子が帰宅した翌日、今度は息子も交えて再び話し合いの場が設けられました。その際、義娘からは「この前は言い過ぎてしまって申し訳ありませんでした」と前置きがあったあと、このような言葉が発せられました。
「二世帯を望んだのはお義父さんたちです。ですが、今後の住宅ローンを何十年も払っていくのは私たちです。ここがお嫌なら頭金はお返ししますから、お二方が出ていってください」
二世帯同居の難しさ
Aさんの家族のように、離れて暮らしていたときは気づかなかった生活習慣の違いは、互いに気を遣いながらも、ときには我慢できない事態に陥ることもあります。
二世帯住宅は、生活習慣の違いによる摩擦が起きると修復が難しくなるだけでなく、お金の面でも大きなリスクを抱えます。一般的な住宅と比べて売却や賃貸化が難しく、同居を解消する際の頭金返還や住宅ローンの精算で揉めるケースが少なくありません。
二世帯住宅を検討する際は、建築費用の分担やローンの設定といった「建てるためのお金」だけでなく、持ち分をどのようにするのか、住宅ローンをどのように設定するのかといった試算を含めた出口戦略まで、家族で十分に話し合っておくことが重要です。
三藤 桂子
合同会社ミコサポ
代表
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