「もっと早く言ってくれれば」息子が知らなかった母の日常
翌朝、雅人さんは母と一緒に家の中を見て回りました。
台所やトイレなど、普段使う場所は片づいています。しかし、2階には何ヵ月も動かしていない段ボールや古い衣類が残り、階段にも処分する予定の紙袋が置かれていました。
富美子さんは「できないわけじゃないのよ」と何度も口にしました。
実際、ごみを捨てることも、掃除機をかけることもできます。ただ、以前ならその日のうちに済ませていた作業を「明日でいいか」と先延ばしすることが増え、それが何日、何週間と残るようになっていました。
特に負担だったのが、重い物を運ぶことと高い場所の掃除でした。
「2階まで掃除機を持って上がるのが嫌でね。だから最近は、上はほとんど掃除してない」
雅人さんはそこで初めて、母が一人暮らしを続けられるかどうかを、「料理ができる」「買い物に行ける」といった一部の行動だけで判断していたことに気づきました。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』では、「電球の交換や庭の手入れなどの日常生活の作業が一人ではできなくなったとき」に頼れる相手として、63.9%が「別居の家族・親族」を挙げています。一方、「有料のサービスを利用する」は25.6%、「頼れる人はいない」とする人も11.1%でした。
雅人さんは「もっと早く言ってくれればよかったのに」と思いましたが、実家までは車で3時間近くかかります。仕事や自分の家庭もあり、毎週手伝いに来るのは現実的ではありません。
そこで親子は、富美子さんが一人暮らしを続けるために、負担になっている家事をどう減らすか考えることにしました。
まず不要な物を一緒に整理し、粗大ごみは自治体の収集を利用。掃除については、月に数回、民間の家事代行を頼むことも検討しました。2階には日常的に使う物を置かず、掃除機も軽量のものに買い替えています。
富美子さんは最初、「掃除にお金を払うなんてもったいない」と渋っていました。しかし雅人さんから、「無理して全部自分でやらなくてもいいんじゃない? 大変なところだけ頼めばいいよ」と言われ、少しずつ考えが変わったといいます。
ある日突然すべての家事ができなくなるわけではありません。買い物や料理はできても、重い物を運ぶ、広い家を掃除する、ごみをまとめて運ぶといった一部の作業だけが負担になることもあります。
離れて暮らす家族にとっても、電話で元気な声を聞くだけでは、そうした細かな変化までは分からないものです。久しぶりに訪れた家の様子が以前と違っていたときは、今どの作業が負担になっているのかを確認することで、必要な支え方が見えてくることがあります。
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