玄関を開けてすぐ感じた「いつもの実家」との違い
「ただいま。母さん、いる?」
半年ぶりに実家へ帰った雅人さん(仮名・53歳)は、玄関に入ったところで足を止めました。
母の富美子さん(仮名・82歳)は、夫を9年前に亡くしてから一人暮らし。年金は月約16万円、預貯金は約1,300万円あり、住宅ローンを完済した戸建てで暮らしています。
富美子さんは昔から几帳面な人でした。靴は使うものだけを玄関に出し、宅配便の段ボールも届いたその日のうちに畳むタイプです。
ところが、この日は玄関の隅に空の段ボールが4、5箱重なり、その横には新聞紙を入れた紙袋が置かれていました。靴も何足か出しっぱなしです。
「これ、どうしたの?」
雅人さんが尋ねると、富美子さんは「捨てようと思ってるんだけどね」と答えました。
部屋に入ると、さらに気になるものがありました。廊下には洗濯したシーツが畳まれないまま置かれ、リビングの隅には読み終えた新聞や自治体の広報紙が積まれています。
いわゆる「ごみ屋敷」という状態ではありません。それでも雅人さんには、はっきりした違和感がありました。
「こんな家じゃなかったのに」
そう思ったといいます。
富美子さん自身は普段通りでした。昼食も自分で用意し、スーパーへも歩いて行っています。家計管理もしており、公共料金の支払いが滞っている様子はありませんでした。
内閣府『令和5年度 高齢者の住宅と生活環境に関する調査』によると、65歳以上で「自分で食品・日用品の買物をしている」人は75.5%、「自分で請求書の支払いをしている」人は74.4%、「自分で食事の用意をしている」人も65.9%でした。高齢になっても、自分で日常生活の多くをこなしている人は少なくありません。
だからこそ雅人さんも、電話で母と話す限り、生活に困っているとは考えていませんでした。
夕食後、段ボールを片づけながら「最近、掃除してる?」と尋ねると、富美子さんは少し困った顔をしました。
「掃除機が重く感じるようになってね。ごみも、まとめるところまではできるんだけど、収集場所まで持っていくのが面倒なのよ」
初めて聞く話でした。
