「困ったときは頼って」一言から増えていった孫の世話
午後3時を過ぎると、京子さん(仮名・72歳)は夕食の支度を始めます。
この日の献立は、鶏肉の照り焼きとサラダ、みそ汁。自分一人なら残り物で済ませるところですが、小学生の孫2人が来る日はそうもいきません。
京子さんは夫を5年前に亡くし、一人暮らし。年金は月約18万円、預貯金は約1,800万円あり、住宅ローンを完済したマンションで暮らしています。
車で15分ほどの場所には、長女の裕子さん(仮名・43歳)が夫と小学5年生、小学2年生の子ども2人と暮らしています。
京子さんが孫の世話をするようになったのは、裕子さんがフルタイム勤務に戻ったころでした。
「仕事が遅くなる日があったら、私が見てるから。困ったときは頼って」
そう申し出たのは京子さん自身です。
当初は月に2、3回ほどでした。裕子さんの帰宅が遅くなる日に、孫を預かって夕食を食べさせる程度。孫たちから「おばあちゃんのハンバーグが好き」と言われるのもうれしく、次は何を作ろうかと考えることさえ楽しみでした。
ところが数年たつうちに、回数が増えていきました。
上の孫が習い事を始めると、その送迎を頼まれることもあり、裕子さんの夫が出張の日には2人を預かります。長期休暇中は、朝から孫がやって来る日もありました。
最近では週に2、3回、夕食を一緒に食べることも珍しくありません。
こども家庭庁『放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況』によると、2025年5月1日時点の登録児童数は157万645人、クラブ数は2万5,928か所に上ります。放課後児童クラブは、保護者が仕事などで昼間家庭にいない小学生に、放課後の生活の場を提供するものです。
京子さんの孫たちも学童を利用しています。それでも、習い事との兼ね合いや両親の帰宅時間によっては、祖母を頼る日がありました。
ある日の午後、京子さんは友人と買い物に出ていました。夕方には一緒に食事をする予定でしたが、スマートフォンに裕子さんからメールが届きます。
「ごめん、今日残業になりそう。夕飯、今日もお願いできる?」
画面を見ながら、京子さんの指が止まりました。本当は、「今日は無理」と返したかったのです。
しかし結局、友人との夕食を断り、「分かったよ」と返信しました。
帰りの電車の中で、京子さんは自分でも意外なことを考えていました。
「今日は来てほしくなかったな」
以前なら孫が来ると聞くだけで楽しみだったのに、その日はそう思えなかったのです。
