「毎月8万円」が5年間続き、いつしか生活の一部に
「来月から、もう仕送りは終わりにするよ」
長男の健太さん(仮名・38歳)からそう告げられたとき、母の裕美さん(仮名・64歳)は、しばらく何も答えられませんでした。
裕美さんは8年前に離婚し、現在は一人暮らし。長年パートとして働いてきましたが、60歳を過ぎてから勤務日数を減らし、現在の手取りは月約9万円です。
家賃は6万2,000円。預貯金は約350万円あり、65歳からは年金を月約9万円受け取る見込みでした。
そんな裕美さんへ、健太さんが毎月8万円を送るようになったのは5年前です。
きっかけは、裕美さんが体調を崩して1ヵ月ほど仕事を休んだことでした。収入が大きく減り、貯金を取り崩していると聞いた健太さんが、「しばらく俺が出すよ」と申し出たのです。
当初、裕美さんは断りました。
しかし、健太さんは会社員として安定した収入があり、「生活が落ち着くまでだから」と言います。それなら数ヵ月だけ、と受け取ることにしました。
ところが、半年たっても送金は続きました。
裕美さんが仕事に復帰した後も、健太さんから「まだ無理して働かなくていいよ」と言われ、毎月決まった日に8万円が振り込まれます。
1年、2年と続くうちに、裕美さんの生活も変わっていきました。
月9万円ほどの給与と8万円の仕送りを合わせれば、毎月使えるのは17万円ほど。そこから家賃を払い、食費や光熱費、通信費、保険料などを支払います。
年に数回は友人と旅行へ行き、古くなった家電も買い替えました。派手な暮らしをしていたわけではありませんが、「月17万円程度で生活する」ことが裕美さんにとって普通になっていたのです。
一方、健太さんには別の認識がありました。「母さんが年金をもらえるようになるまで」というつもりで援助していたのです。
「65歳になったら年金も出るし、そこで終わりにしようと思ってた」
健太さんにそう説明され、裕美さんは初めて「しばらく」の意味が親子でまったく違っていたことに気づきました。
