(※写真はイメージです/PIXTA)

不動産相続において見落とされがちなのが、所有しているだけで発生し続ける「維持コスト」です。空室が増えた賃貸物件や使われていない土地は、収入を生まない一方で、税金・修繕費・管理費といった出費は継続的に発生させます。本記事では、田代直樹さん(仮名/52歳)の事例をもとに、東京財託グループ代表の資産形成・経営アドバイザーの萩原峻大氏が、不動産相続における注意点について解説します。※本記事で紹介する事例は、実際にあった出来事を基にしていますが、個別事案が特定されないようプライバシーに配慮し、登場人物や具体的な状況に一部変更を加えて再構成したものです。

娘の学費には悩むのに…妻が気づいた年間300万円の持ち出し

「ねえ。お義父さんが亡くなってから、ずっと思っていたことをいっていい?」

 

妻・美穂さんが食卓に並べたのは、固定資産税の納税通知書やアパートの修繕費、管理会社から届いた書類でした。もともと直樹さんの相続した不動産に疑問を持っていた美穂さん。娘の進学をきっかけに家計を見直したことで、所有する土地にかかる費用を調べていたのです。

 

アパートは築年数の経過に伴い空室が増え、家賃収入は年々減少。一方で、給湯器や外壁などの修繕費は増えていました。月極駐車場も、近隣環境の変化で稼働率が下がっています。さらに問題だったのが、周辺に点在するいまは一切使われていない祖父母の畑の跡地でした。

 

収入を1円も生まない土地であっても、所有している限り固定資産税がかかります。加えて、雑草の草刈りや樹木の剪定など、敷地を維持するための管理費も定期的に発生していました。これらの不動産にかかる費用を合計すると、年間で約300万円に上っていたのです。

 

「誰も使っていない土地には1年で300万円も払えるのに、娘が行きたい大学は『厳しい』の? いままで黙ってきたけど、娘の進学に影響するのは我慢ならない」

 

「だから、それと土地は別の話だろ」。直樹は思わず強い口調で返しました。

 

「どちらも、この家のお金じゃないの?」

 

「……土地は財産なんだよ。親父から受け継いだものなんだから、簡単に売れるわけないだろ」

 

「じゃあ聞くけど、その財産はいま、私たちになにを残してくれてるの?」

 

美穂さんの指摘に答えられません。直樹さんは、先祖代々の土地を守るために必要なお金が、結果として足元の家族の選択肢を狭めていた現実に、このとき初めて向き合うこととなりました。

ハウスリッチ・キャッシュプアの現実

美穂さんの話を受けて、直樹さんは所有する不動産の収支を一つずつ整理してみました。そこで判明したのは、「自分は資産家」という思い込みとは大きく異なる収益構造でした。

 

古いアパートは家賃収入こそあるものの、空室や修繕費を差し引けば、ほとんど利益が残っていません。以前はほぼ満車だった月極駐車場も空きが目立ち、収益性が低下しています。祖父母が畑として使っていた複数の土地に至っては、収入ゼロに対し、税金や管理費などが掛かっています。妻のいうとおり、これらのために1年で約300万円が消えていました。

 

直樹さん自身の資産の大半は不動産に偏っていました。評価額だけを見れば確かに相応の資産を有する「資産家」ですが、収益を生まない土地を維持するために、本業の収入や家計の現金を取り崩していたのが実態だったのです。その結果、娘の学費や自社の急な資金需要に充てる現金が不足していました。

 

「土地を維持するために働いていたのかもしれない」と、直樹さんは自らの資金状況を客観的に捉え直しました。

次ページ父との約束以外にも…やっぱり土地を手放せない理由

※本連載は萩原峻大氏による書き下ろしです。

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