お父さん、ごめんね、でも…父から受け継いだ〈借地権付き自宅・アパート〉を手放す決断。資産を組み替えた60代女性が「相続税233万円減」よりうれしかったこと【相続実務士が解説】

お父さん、ごめんね、でも…父から受け継いだ〈借地権付き自宅・アパート〉を手放す決断。資産を組み替えた60代女性が「相続税233万円減」よりうれしかったこと【相続実務士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

父から相続した自宅とアパートは、どちらも借地権付き。長年大切に守ってきた財産ですが、60代になったYさんは、娘たちにそのまま残すことに不安を感じるようになりました。地主との関係や建物の老朽化、ご主人の老後も気がかりです。借地権を次世代に残さず、家族が安心できる資産へ組み替える方法について、相続実務士・曽根惠子氏が実例をもとに解説します。

【提案】借地権を売却し、「所有権の自宅」と「区分マンション」へ

当方では、借地権だけを切り離して考えるのではなく、資産全体を見直す「相続設計」をご提案しました。

 

まず検討したのが、借地権付きの自宅と収益アパートの売却です。

 

借地権を売却する場合、有力な売却先の1つが地主さんです。

 

今回は幸い、地主さんが借地権を買い戻す意向を示され、相続税評価額に近い価格で買い取っていただけることになりました。

 

もっとも、借地権の売却は簡単ではありません。

 

地主さんとの協議や条件調整を重ね、実際に売却が成立するまでには約1年を要しました。借地権は必ずしも希望する条件で売却できるとは限らないため、今回は非常に恵まれたケースだったといえます。

 

同時に進めたのが、新しい住まい探しです。借地権を売却できても、その後に暮らす場所がなければ生活に支障が出ます。

 

そこで売却交渉と並行し、ご夫婦と長女が安心して暮らせる住まいを探しました。

 

幸い、Yさんが希望していたエリアで所有権の中古マンションが見つかり、無事に住み替えることができました。

 

これにより、「借りている土地の上に建つ家」から、「土地の権利も含めて所有できる住まい」へと変えることができたのです。

アパートの売却資金で「区分マンション2室」を購入

次に考えたのが、収益アパートを売却して得た資金の活用方法です。売却代金をそのまま預貯金として保有する方法もあります。しかし、Yさんにとって家賃収入は、これまで家族の生活を支えてきた大切な収入源でした。

 

そこで、管理しやすく、比較的流動性の高い区分マンション2室へ組み替えることをご提案しました。

 

区分マンションであれば、建物全体を所有するアパートと異なり、管理会社へ管理を任せやすくなります。また、1棟のアパートに資産を集中させる場合と比べ、修繕や空室などのリスクも分散できます。

 

さらに、必要になった際には1室ずつ売却することもでき、相続時にも分けやすいというメリットがあります。

 

2室保有しておけば、将来は娘さん2人にそれぞれ1室ずつ承継させることも検討できます。

 

「相続した不動産を姉妹で共有しなければならない」という状況を避けやすくなる点も、大きなメリットです。

夫の老後を支える「家賃収入」も確保

今回の相続設計では、夫の老後生活にも配慮しました。

 

購入した区分マンションから得られる家賃収入を、夫の老後の生活費として活用できるようにしたのです。

 

年金だけに頼るのではなく、毎月の家賃収入という収入源を確保しておけば、今後生活費が増えたり、介護費用が必要になったりした場合にも備えやすくなります。

 

このように、「借地権の整理→自宅の住み替え→収益不動産の組み替え」までを一つの流れとして考えることで、「住まい」「収益」「老後」「相続」という複数の課題を同時に解決していきました。

 

【解決】相続税は約233万円軽減、娘2人にも分けやすい資産に

今回の相続設計によって、Yさん一家の資産は大きく変わりました。

 

借地権付きの自宅から所有権の中古マンションへ住み替えたことで、地主さんとの関係や借地権の承継という問題を娘さんたちへ残さずに済みました。

 

老朽化していた借地権付きアパートも整理し、代わりに区分マンション2室を所有することで、家賃収入を維持しながら管理負担を軽減することができました。

 

また、ご主人の老後の生活費を支える収入源を確保しつつ、将来は娘さん2人にも分けやすい資産構成となりました。さらに、資産の組み替えによって相続税対策にもつながりました。

 

そして、相続税評価額は、対策前の1億4,341万円から、対策後は1億3,011万円へ。約1,330万円の圧縮となりました。

 

相続税の概算額も、対策前の1,369万円から、対策後は1,136万円となり、約233万円軽減することができました。

 

Yさんは、「父が残してくれた借地権を手放すことには迷いもありました。でも、子どもたちに負担を残さず、主人の生活まで考えていただけたので、本当に安心しました」と話していました。

【相続実務士の視点】「残すこと」だけが相続対策ではない

今回の事例で大切なのは、「借地権を売却したこと」そのものではありません。

 

ポイントは、借地権付きの自宅と収益アパートを、所有権の自宅と管理しやすい収益不動産へ組み替えたことです。

 

相続対策というと、どうしても「相続税をいくら減らせるか」という節税の話に目が向きがちです。

 

しかし、本当に考えなければならないのは、その財産を相続した家族が困らないかということです。

 

誰がその家に住むのか。老後の生活費はどのように確保するのか。不動産は誰が管理するのか。そして、最終的に誰へどのような形で承継するのか。

 

これらを一体で考える必要があります。

 

今回のYさんの場合、借地権をそのまま残していれば、娘さんたちは将来、地主さんとの交渉や老朽化した建物の管理を引き継ぐことになったかもしれません。一方、現金だけに換えてしまえば、それまで得られていた家賃収入がなくなり、ご主人の老後生活にも影響します。

 

そこで、住まいは所有権のマンションへ、収益資産は区分マンション2室へと組み替えました。

 

その結果、借地権の承継リスクを解消しながら家賃収入を維持し、相続税を約233万円軽減。さらに、娘さん2人にも分けやすい資産にすることができました。

 

相続とは、ただ財産を「残す」ことではありません。家族が安心して暮らし、次の世代が困らない形で財産を渡せるようにしておくこと。

 

そのためには、今ある財産を守ることだけにこだわらず、時には売却し、家族に合った資産へ組み替えることも必要です。

 

家族構成、生活設計、相続税、収益性、管理のしやすさ、そして承継方法までを総合的に考えること。それが、「相続設計」なのです。

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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