差し伸べられた手を掴まなかった理由
息子からの提案に迷ったのには、理由がありました。
「いくら関係性が良くても、息子夫婦には息子夫婦の暮らしがあります。気を遣わせたくないし、私も遠慮しながら生活したくありません」
生活時間の違い、家事の分担、孫の受験、食事の好み……。最初はうまくいっても、小さな気遣いが積み重なれば、お互いに負担になることがあります。同居には生活費を抑えられるメリットがある一方で、家族だからこそ距離感が難しくなることも少なくありません。
「でも、このままでは遅かれ早かれ貯金が尽きて、結局息子夫婦に迷惑をかけることになるかもしれない。だから、行動しなきゃと思ったんです」
早苗さんは、支出のネックになっている家賃をどうにかしたいと考えました。しかし、高齢者の賃貸探しは保証人や孤独死リスクの壁があると知り、市役所に足を運んで相談することに。すると、所得などの条件を満たしていたため、公営住宅へ申し込めることが分かりました。
早苗さんはさっそく抽選に応募し、築年数は古いものの、家賃3万2,000円の団地へ入居が決まったのです。
転居後の毎月の支出は約12万円まで減少しました。年金収入だけで生活費をほぼ賄えるようになり、貯蓄を取り崩すペースも大きく改善。団地では自然と顔見知りも増え、地域とのつながりもできたといいます。
「古くても十分。窓から緑が見えるし、近所にも同年代の人がいて安心です。この先、困ったときは息子に頼らざるを得ないこともあるかもしれません。でも、元気なうちは自分で暮らしたいんです」
