「お母さんのために」介護付き有料老人ホームへの入居を決断
「母にとって一番いい選択だと思って、老人ホームに入れたんです。でも……」
東京都に住む会社員の山田恵さん(仮名・52歳)は振り返ります。
恵さんは、地方都市で一人暮らしを続けていた母・和子さん(仮名・81歳)のことがずっと気がかりでした。
当時の和子さんは、高血圧の持病はあるものの要介護認定は受けておらず、身の回りのことは自分でできる状態でした。それでも高齢者の一人暮らしです。「転倒したりしても、誰も気づかないかもしれない」――和子さんが年を重ねるごとに、恵さんの不安は増していきました。
とはいえ、恵さんは夫と共働きで、高校生の子どももいます。実家までは新幹線で約3時間かかり、何かあってもすぐ駆け付けられる距離ではありません。そんな不安から、恵さんは和子さんに老人ホームへの入居を勧めました。
選んだのは、自立した高齢者も入居できる混合型の介護付き有料老人ホームです。月額利用料は25万円、入居一時金は600万円と、安い金額ではありません。
ですが、和子さんの年金収入は月18万円ほど。預貯金は約2,300万円あり、持ち家で住宅ローンもありません。年金だけでは月7万円ほど足りませんが、預貯金から補填しても当面の生活は十分に成り立ちます。
なにより、食事は栄養士が管理し、24時間スタッフが常駐。レクリエーションも充実しています。
「ここなら、お母さんが安心して幸せに暮らせる」――そのはずでした。
「食事がおいしい」「掃除もしなくていいから楽」のはずが…
「食事がおいしいし、掃除もしなくていいから楽。この施設に入れてよかったわ」
入居当初は、そう笑顔で話していました。しかし、しばらくすると、和子さんに変化が現れるようになります。
「以前は新聞を隅々まで読んでいたのに、興味がなくなったみたい。年齢的にしかたないとはいえ、居眠りもすごく増えて。一番ショックだったのが、母がときどき杖を使うようになったこと。……私には、急激に衰えてしまったように見えたんです」
そう話す恵さん。以前の和子さんは、毎朝近所のスーパーまで歩き、庭の草花の手入れをし、近所の友人と立ち話をするのが日課でした。
一方、施設では食事も掃除もスタッフがしてくれます。必要な支援を受けられることは大きな安心ですが、まだ自分でできることが多かった和子さんにとっては、「自分でやる」機会が少なくなっていきました。
職員から声をかけてもらい、レクリエーションにも参加できますが、以前のように「自分で何かをする」という場面は少なくなりました。また、施設でも話す人はいますが、長年同じ地域に住んだ顔見知りとは、やはり少し違います。
さまざまな要因が重なったのか、和子さんは少しずつ元気を失っていったのです。
