(※写真はイメージです/PIXTA)

定年後の移住先として、海や山に近い地域へ憧れる人は少なくありません。ただし景色や住宅価格だけで決めると、交通や医療、買い物の不便さに直面することもあります。長く暮らすには、理想の環境だけでなく、年齢を重ねた後も生活を維持できるかを具体的に確かめる必要があります。

「二人でこんなに話すんだ」娘が驚いた新しい日常

移住から半年後、真紀さんは初めて新居を訪ねました。

 

駅に着くと、両親が二人そろって迎えに来ています。以前は外出を面倒がっていた隆さんが、日焼けした顔で真紀さんの荷物を受け取りました。

 

「毎朝、海まで歩いているんだ。往復でちょうど40分くらいになる」

 

新居は以前の家より狭い2LDKでしたが、窓から空と海が見えます。部屋には必要な家具だけが置かれ、階段も庭の手入れもありません。

 

昼食には、和子さんが近所の直売所で買った魚を焼きました。

 

「この魚、朝に揚がったんだって。都会では考えられなかったわ」

 

食事中、二人は近所の店や散歩中に知り合った人の話を次々とします。以前の実家では、隆さんはテレビを見たままほとんど話さず、和子さんが一人で話題をつなぐことが多かったといいます。

 

真紀さんは、夫婦の会話が増えていることに驚きました。

 

「お父さんとお母さんって、二人でこんなに話すんだと思った」

 

一方で、不便がまったくないわけではありません。専門的な診療を受けるには、電車で隣の市まで行く必要があります。冬は海風が強く、都市部より光熱費がかかった月もありました。

 

マンションの管理費と修繕積立金は月約3万円。車は当面所有しますが、75歳をめどに手放す予定です。そのため、車を使わなくても買い物や通院ができる場所を選びました。

 

真紀さんは当初、両親が遠くへ行くことに寂しさを感じていました。しかし、新幹線と在来線を乗り継げば約2時間で着きます。毎週会える距離ではありませんが、以前から訪問は年に数回程度でした。

 

現在は週に一度、家族でビデオ通話をしています。和子さんたちは、その週に撮った海や夕焼けの写真を送ってくるようになりました。

 

「移住したから、すべてがうまくいったわけではありません。でも、どこで暮らすかを二人で考えたことで、これからどう生きたいかも話せるようになりました」

 

地方や海辺への移住は、住居費を抑えたり、自然に近い暮らしを得たりする選択肢になります。一方、年齢を重ねれば、移動手段や医療機関へのアクセスが生活を大きく左右します。憧れだけで決めるのではなく、短期滞在などで日常を試し、将来の変化まで見据えて住まいを選ぶことが大切です。

 

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