母が封筒の中で見つけた「毎月3万円」の記録
封筒の中には、実家近くの金融機関の通帳が入っていました。翔太さんが社会人になった月から、毎月3万円ずつ入金されています。残高は70万円を超えていました。
「これは何のお金?」
「大学に行かせてもらった分。全部は無理だけど、少しずつ返そうと思って」
翔太さんが大学へ進学したころ、父親の勤務先では業績が悪化し、賞与が大幅に減りました。美智子さん夫婦は貯金を取り崩し、一部は教育ローンを利用して学費を工面しています。
両親はその事情を詳しく話していませんでしたが、翔太さんは帰省した際、偶然ローンの返済予定表を見つけていました。
「就職したら自分で払おうと決めてた。でも、お母さんに言ったら絶対に受け取らないでしょう」
家賃などを支払った後、奨学金とは別に3万円を貯めるため、食費を月2万円程度に抑えていたといいます。暖房もできるだけ使わず、友人からの誘いも断っていました。
通帳を見た美智子さんは、しばらく言葉が出ませんでした。
息子が自分たちを思っていたことはうれしい。一方で、親を安心させるために「元気に暮らしている」と嘘をつき、食事まで削っていたことに気づくと、涙が止まりませんでした。
「返してほしくて大学へ行かせたんじゃないよ。こんな生活をしていたなんて、知らなかった」
美智子さん夫婦は、翔太さんと話し合い、通帳のお金は受け取らないと伝えました。すでに貯めた70万円は、生活防衛資金として本人が持つことにします。
また食費や光熱費を削らずに済むよう、毎月の貯金額を3万円から1万円に減らしました。引っ越し費用の分割払いが終われば、その分を将来の貯蓄に回す予定です。
日本学生支援機構では、奨学金の返還が困難になった場合、一定期間の返還額を減らす「減額返還制度」や、返還を先送りする「返還期限猶予制度」を設けています。収入減少などで返還が難しくなったときは、滞納する前に制度の利用を検討することが大切です。なお、第一種奨学金を月額5万4,000円で4年間借りた場合、返還例では毎月の返還額は1万4,400円、返還期間は15年とされています。
帰る前、美智子さんは近所の店で厚手のカーテンと数日分の食料を買いました。今後は月に一度、息子とビデオ通話をし、食事や体調についても確認することにしています。
子どもの自立を尊重することは大切ですが、困りごとを一人で抱え込ませないことも同じくらい重要です。社会人になれば親子の関係は変わりますが、生活の悩みを相談できる存在であり続けることが、長い目で見れば互いの安心につながるのでしょう。
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