巨額な予算を投じて「インターネット産業革命」を推進
ドイツ経済の強さを示す直近の例では、ドイツが世界に先駆けて取り組んでいる、「インダストリー4.0」注6という壮大なプロジェクトを挙げることができます。スマートフォンやタブレットが爆発的に普及し、インターネット情報が数十億、数百億の単位で拡大しています。この情報を駆使して、需要から部品生産、組み立て、流通、販売、配送までをネット化して、最大限に無駄を省き効率化しようというものです。
ドイツ政府はこのプロジェクトに、当面一〇〇〇億ユーロ、十数兆円の予算を投入しています。政府、企業、大学、研究機関などが一体になって取り組んでいます。
「インダストリー4.0」は、第四次産業革命です。第一次の蒸気機関、第二次の石油と電気、第三次の電子、IT、そして第四次がこのインターネット革命です。
さすが、アメリカは直ちに呼応し、この産業革命に全面的に参加する体制を整えたので、大西洋をまたぐ大プロジェクトに発展しつつあります。中国も積極的ですし、日本も経済産業省が研究を開始しました。
経済学者がケチケチ予算と非難するドイツが、世界をリードする壮大な投資で先頭に立っているのです。官邸が企業に投資しろと責め立てたり、マイナス金利で無理強いしたりするのとは、だいぶ違った第三の矢が放たれています。高速道路アウトバーンは原則無料、大学授業料も無料と、日本とはお金の使いどころが大変違います。
海外展開にきわめて積極的なドイツの中小企業
熊谷徹氏というドイツ研究家が、面白い指摘をしています注7(熊谷氏については本書『ユーロは絶対に崩壊しない』の第二章で詳しくご紹介します)。ドイツといえば、メルセデスベンツとかシーメンスといった大企業が頭に浮かびますが、熊谷氏によるとドイツの中小企業は侮りがたい力をもっているというのです。中小企業は従業員五〇〇人以下の企業です。
輸出産業の国ドイツの統計をみると、輸出総額のうち大企業が占める割合は、アメリカや日本が九五%前後なのに対し、ドイツは六〇%台の後半くらいで、あとは中小企業の輸出です。
ドイツの企業数でいうと九九・五%、従業員数でいうと七九・二%が中小企業です。熊谷氏は中小企業は、ドイツ経済の屋台骨であるといいます。
ドイツ中小企業の特許製品が紹介されていますが、その一つが犬の散歩の時に使う首輪ヒモです。犬が遠くへ行くとスルスル伸びて、戻って来ると巻き尺のように巻き込む、あのリール式の首輪ヒモです。このごろ日本でもよく見かけるようになりました。私もボンに住んでいた時、東京から連れて行った犬を飼っていたので、この首輪ヒモを使っていました。
こういうものがドイツ中小企業のちょっとしたアイデア商品で、日本の店頭で売られている日常品のなかには結構ドイツ商品があります。ドイツの中小企業は海外展開にきわめて積極的です。
注6 『決定版 インダストリー4.0――第4次産業革命の全貌』 尾木蔵人 東洋経済新報社 二〇一五年
注7 『あっぱれ技術大国ドイツ』 熊谷徹 新潮文庫、二〇一一年