近年、好調な業績が続いているスリランカの銀行業界
民間のクレジットが思うように拡大していないなかで、どの銀行もここ数年で経営を立て直している。昨年の下半期は、民間需要の弱さが目立ったものの、金融機関からの国家借入がその穴埋めとなった。また、金担保融資がもたらした不良債権率の低下、そして預金利率の引き下げの遅延効果が、今年3月期の財務業績の改善に貢献している。
しかし、簿価の2倍というプレミア価格で取引されているのは、コマーシャル銀行(Commercial Bank)だけだ。DFCCヴァルダーナ銀行、サンパス銀行、そしてハットンナショナル銀行は、簿価に対しそれぞれ1.1倍、1.2倍、そして1.3倍の額だ。
セイラン銀行の簿価は、議決権のない株と役員会による保有分を含めると、250億スリランカ・ルピーを上回る。買収額は、現在セイラン銀行の議決権を持つ株主のうち、何割が継続して合併後も株主となるか次第で決まるだろう。
合併を決断できない優柔不断な経営陣
銀行経営は大変だ。資金源である株主、コンプライアンス規則を導入しては捻じ曲げる当局、実に気まぐれな顧客の3者間で拮抗する要求、そして、経済を良くするための挑戦。そのいずれも軽視することは許されない。
どの銀行家たちも、これを頭では理解できているのに行動に移すと失敗してしまう。その有様には驚かされるばかりだが、これまでを考えると、その理由は2つあった。ひとつは、これは今となって解決したと考えたいことだが、当局との間で起きていた利害衝突だ。もうひとつは臆病な経営陣の消極性である。経営陣による判断は、自らの脆弱さと腰抜けぶりを覆い隠し、堂々と困難に立ち向かっていると見せかけているにすぎないのだ。
事実、経営陣にとって、不利な立場から合併交渉を進めざるを得ない状況は実に不本意であり、それが他のどんな理由にも勝り、これまでにも浮上したであろう合併交渉をもみ消してきた一番の原因かもしれない。
銀行にとっては、合併話は両刃の剣であったはずだ。合併すれば経営基盤の弱さを叩かれ、合併をしなければ規模を拡大する機会を逃したと叩かれてしまう。その様なジレンマを目の前にして、彼らは硬直してしまった。
M&A熱が高まるにつれ高額化する買収額
これからの数年で、金融業界内の合併劇は更に熱を帯び、その交渉額を凄まじく跳ね上がるに違いない。またM&Aの渦中にいる銀行は想定以上の買収額を支払っていることに、はじめは気付きもしないはずだ。なぜなら、その頃には合併を選択する方が当たり前になっているからだ。合併取引はもはや高額化しているが、経営陣は大金と引き換えに安心を買っているのかもしれない。
また、M&Aに対する圧力は強烈になるだろう。なぜなら、どの銀行もいずれかの銀行に交渉を持ちかけるはずだからだ。市場はその交渉を後押しし、経営陣に誤った安全意識を植え付ける。これがM&Aが起きる激動的な第3局面だ。
次回は、合併熱がピークに達する最後の局面、そして、小規模な銀行を追いつめる要因についてご紹介します。