実質金利上昇の一因となり得るハイパースケーラーの資金需要増
足もとの米国債券市場では、名目金利の上昇が続いています。
名目金利の内訳を確認すると、原油高の影響があるにも関わらず、長期期待インフレ率は低下する一方で、実質金利が名目金利を押し上げるという構図でした。
実質金利の上昇は、米国の潜在成長率の上昇や財政懸念といった要因以外にも多くの理由が考えられますが、市場における資金需給のひっ迫そのものが、実質金利の上昇に寄与した可能性も挙げられます。
近年、ハイパースケーラーと呼ばれる米国の大手テック企業群はデータセンターや電力インフラといった巨額の設備投資を実施・計画してきました。こうした需要に応えるため、半導体関連メーカーも同様に巨額の設備投資を行っています。
これらの設備投資は、これまでの投資サイクルを大きく超える規模・期間となっており、米国のGDP成長に寄与しています。
問題は、こうした設備投資の規模が巨大であるため、資金調達の際に市場から巨額の資金を吸い上げてしまう点であると筆者は考えます。
ハイパースケーラーの資金調達増が社債市場でも問題視され始めたか
足もと、米国社債市場でクレジットスプレッド(社債利回りと米国債利回りの差)が拡大し始めています。市場全体で見ると緩やかな上昇かつ歴史的に見ればスプレッドは低水準であり、市場全体に問題が生じているわけではありませんが、ハイパースケーラー銘柄に限ってみれば、クレジットスプレッドの急拡大が発生しています。
企業の信用力悪化が発生するとクレジットスプレッドは拡大する傾向にあります。しかし、現状多くのハイパースケーラーは良好な業績を発表しており、信用リスクが高まっているとは考えにくい状況です。そのため、足もとのスプレッド拡大は、一部のハイパースケーラー企業の資金調達増に対する債券市場の反応であると思われます。
実質金利上昇で変わる米国債券市場の投資環境
筆者は、米国の資金市場において、政府部門の調達増に加えて、ハイパースケーラーを中心とした一部企業の巨大な資金需要が長期資金を市場から吸収した結果、資金需給が締まり、実質金利の上昇が起きた可能性があると考えます。
政府部門の公共投資増が市場から資金を吸い上げて金利上昇が発生することをクラウディングアウトと呼びますが、足もとの環境は古典的なクラウディングアウトの状況が一部の大手企業の資金需要増加によって強まった環境であると解釈しています。
この仮説が正しければ、米国債への投資判断に大きな示唆を与えます。
景気サイクルに連動しにくいハイパースケーラーによる投資が続く環境では、仮にFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げを実施したとしても、米国の実質金利は下がりにくいと考えられます。加えて、ウォーシュ議長がFRBのバランスシートを縮小させる意向であることも踏まえると、米国の長期金利の低下余地が小さい可能性が出てきます。また、米国の実質金利が相対的に高い環境が続く場合、他国からの投資先として選好され、ドル高が続きやすい可能性も示唆されます。
これまでAI関連の設備投資は、株式市場における重要な成長テーマでしたが、債券・為替市場においても資金の流れを左右する構造的なテーマとして捉え直す必要があるのではないかと筆者は考えています。
須賀田 進成
アセットマネジメントOne株式会社
債券運用部 ファンドマネジャー




