米財務省の金利上昇けん制でドル安が進展。ドル離れ再燃の兆しか
米国の長期・超長期金利の上昇が続く中、米国財務省は長期・超長期国債の買い入れ増額を突如発表しました。これ以降、米国の金利上昇が一服し、ドル安と金・仮想通貨の上昇が発生しており、市場の反応としては、昨年大きな話題となったドルからのディベースメント(ドル離れ)取引に似たものとなっています。
筆者は、今後の政治スケジュールを踏まえ、ドル安が続く可能性が高まったと判断しており、この環境で円安懸念をどれだけ払しょくできるかが次のドル円相場の注目点になると考えています。
米国の金利上昇けん制後にドル安が進展。ディベースメント取引の再燃なのか?
米国のベッセント財務長官は、10年から30年を満期とする国債の買い入れ額を最低でも倍とする方針を示しました。国債の買い入れは、これまでも実施されてきましたが、発行から時間が経ち流動性の落ちた銘柄を買い入れて償却し、同年限の流動性を改善する目的で行われてきました。しかし、今回表明された措置に関するベッセント財務長官のインタビューでは、超長期金利を中心にファンダメンタルズと一致しない金利上昇が発生している点を懸念した対応であることがうかがわれ、金利上昇に対して米国財務省が強いけん制姿勢を示したと解釈できます。
この発表以降、ドル指数は下落しましたが、その一方で金やビットコインなどの仮想通貨が買われており、国債買い入れ増額表明後の相場は、昨年から今年の初めにかけてのようなドルからのディベースメント相場に近い印象を受けます(図表1、2)。
今年の4月以降のドル高は、中東の地政学リスクが高まる中での有事のドル買いと、米国の実質金利上昇を反映した動きであったと整理されます。足元では、中東の地政学リスクが一服していることや、米国財務省の対応により長期実質金利の上昇が抑制されている点など、これまでドル高要因として意識されてきた材料が後退しつつあり、足元のドル安はこうした要因の変化による側面が強いと筆者は考えています。
一方で、金や仮想通貨の上昇は、米国によるイランの経済的孤立を目的とした大規模金融制裁の発動を控え、安全資産や非ドル決済手段としての仮想通貨の需要が高まったものと解釈でき、こちらはドルからのディベースメント取引に近い反応と受け取れます。
これらの考察をまとめますと、ここ1週間ほどで発生したドル安と金や仮想通貨の上昇は、昨年のドル離れの再燃を想起させるものの、本格的な動きには至っていないと考えられます。
ドル安の継続性はトランプ政権次第だが、中間選挙までは不透明感を意識した展開か
今後、ドル離れが本格化するか否かは、トランプ政権の動きを市場がどう解釈するか次第になっていると考えます。現時点でもイランに対する金融制裁や、新たな対中関税の表明、カナダとの貿易交渉の決裂といった米国不信を招く材料は多くありますが、今後の政治スケジュールを展望すると、9月には異例の前倒し開催となる米共和党の党大会を皮切りに中間選挙に向けた政治キャンペーンが続く他、中旬から下旬には米中首脳会談と国連総会での外交日程が予定されています。
また、前述した国債買い入れの増額も9月9日から始まります。米国の政治イベントが続くため、当面は先行きへの不透明感が意識され続ける時間帯に入ったと考えられ、ドルは上値を抑えられる見通しです。過度に米国不信を強めるような動きがあれば、ドル離れの動きが再燃し、ドル安が一段と進む可能性が高いでしょう。
ドル安環境のうちに円安リスクを払しょくできるかが当面のドル円相場の注目点に
仮にドル安が続くのであれば、円安是正に向けた取り組みが市場から評価されやすい環境になっているとも考えられます。
今後、日本でも概算要求や政権人事、日銀会合といった政治・金融政策イベントが続きますが、財政拡張や日銀がインフレ対応で後手に回ることへの懸念を払しょくできれば、過度に円安が進展するリスクは相応に後退する可能性があります。
須賀田 進成
アセットマネジメントOne株式会社
債券運用部 ファンドマネジャー




