【専門家が伝授】知り合い間のM&Aでトラブルを回避する2つの鉄則
今回の事例のように、どれほど親しい関係であっても、「仲が良いこと」と「労務が適法に管理されていること」は完全に別問題です。思わぬトラブルや関係破綻を回避するために、買収前に必ず実施すべきポイントは以下の2点です。
1. 関係が近いからこそ、客観的かつドライに「労務DD」を行う
「先輩を疑うようで失礼だ」「細かいことを聞くと関係が壊れそう」という心理的ハードルがあるからこそ、第三者である社労士などの専門家に労務DDを依頼するのが賢明です。
「私自身が疑っているわけではなく、M&Aでは専門家による客観的な確認を行うことが一般的です」と説明し、間に専門家を挟むことで、人間関係を崩さずにドライで厳密な労務実態調査を行うことができます。
2. クロージング前に、PMIを見据えた「改善策・是正コスト」を策定する
労務リスクを発見したら、それを「買収後にどう修正するか」というPMIの計画と是正コストを、必ず契約前に策定しておくことが重要です。
事前に是正コストを試算できれば、「適正化に〇〇万円かかるため、その分を買収価格から差し引いてほしい」「クロージングまでに売主側の責任で是正してほしい」といった、合理的で対等な条件交渉が可能になります。
お互いの関係を守るためにも、事前の労務チェックを
「地元の先輩・後輩」「元上司と部下」「昔からの取引先」―互いによく知る間柄で会社を引き継ぐM&Aは、一見すると心理的ハードルが低く、安心感もあるでしょう。しかし、その安心感が「確認しなくても大丈夫」という油断につながったとき、買収後に思わぬ労務トラブルが表面化し、事業だけでなく大切な人間関係にまで影響を及ぼすことがあります。
お互いの信頼関係を守り、後々のトラブルを防ぐためにも、買収前には客観的かつドライに労務DDを行いましょう。PMIを見据えた改善策までセットで準備しておくことが、買い手・売り手双方を守る最大の防衛策です。
「知り合いから会社を引き継ぐ話が出ているが、労務面に不安がある」「何をどこまで確認すればよいかわからない」と感じたときは、契約を締結する前の段階で、M&Aにおける労務の実務に精通した専門家へ相談してみることをおすすめします。
M&Aは、ただ会社や事業を買う取引ではありません。そこで働く「人」と、その会社が積み重ねてきた労務管理まで引き継ぐ取引です。決算書には表れない労務リスクにも目を向けることこそが、M&Aを成功へ導く重要な鍵になるのです。
安達 弘貴
社会保険労務士法人AOBA
代表
