【実際の事例】地元の先輩から会社を買収したものの…PMIで次々と発覚した「4つの爆弾」
買い手となったのは、会社員から独立して起業を目指していた神田社長(仮名・48歳)です。神田社長は、地元の尊敬する先輩である酒井社長(仮名・63歳)から「私の会社を引き継いでくれないか」と打診を受けました。
長年の付き合いもあり、酒井社長の人柄を信頼していた神田社長はその申し出を快諾。知り合いの税理士に依頼して財務・税務面の調査(財務DD・税務DD)を中心に手続きを進め、あっという間に手続きの最終日であるクロージングを迎えました。
私が税理士を通じて神田社長からご相談をいただいたのは、まさにその直前。「買収後の労務PMI(買収後の労務管理や組織を円滑に統合していくプロセス)を手伝ってほしい」というご依頼でした。
ところが、クロージングが完了し、いざ労務PMIに着手して社内の実態を確認し始めた途端、私は思わず言葉を失いました。信頼していた先輩の会社には、法令上の問題が疑われる「爆弾」があちこちに埋まっていたのです。具体的には、以下のような実態が次々と明らかになりました。
発覚した爆弾その①:勤怠管理は前社長のさじ加減
タイムカードなどの客観的な記録媒体は一切存在せず、勤務時間の把握や残業代の算定は、前社長の判断に依存した運用となっていました。
発覚した爆弾その②:一般社員と親族社員で有給休暇の消化日数に大きな差
有給休暇は本来、全労働者に与えられた法的権利です。しかし現場の一般社員からは「有給休暇を取得しづらい雰囲気だった」との声が上がり、親族社員との間で有給休暇の取得状況に差があったことが確認されました。
発覚した爆弾その③:「36協定届」の届出なし
日常的に残業が発生していたにもかかわらず、労働基準監督署へ「36協定届(時間外・休日労働に関する協定届)」が提出されていませんでした。
発覚した爆弾その④:「就業規則」の作成・届出なし
常時10名以上の労働者を雇用しているにもかかわらず、労働基準法で義務付けられている就業規則が作成・届出されていませんでした(雇用契約書のみ存在)。
【泥沼の現場】「知らなかった」では済まされない…買い手が負う重い代償
会社の実態を知った神田社長は、「ここまでとは思っていませんでした」と肩を落としました。
しかし、すでに買収契約は成立しています。過去の労務管理上の問題や、それによって生じた労使トラブルへの対応は、新たに会社を引き継いだ神田社長にとって避けて通れない課題となりました。
買収後、一般社員たちからは「タイムカードもないなんておかしい」「前の社長の親族ばかり優遇されていて納得がいかなかった」と、長年溜め込まれていた不満が一気に噴出。本来であれば買収後の相乗効果を生み出すための事業戦略に使うはずだった神田社長の貴重な時間とエネルギーは、「前の社長が遺した負の遺産の清算と不満解消」だけで数か月間も奪われることになってしまったのです。
