以前は翌日の予定など気にしなかったが…見つけた“意外な習慣”
転機は、康子さんから言われた一言でした。
「最近、朝からずっと座っているでしょう。少し歩いてきたら?」
自分でも運動不足を感じていた良一さんは翌朝、近所の公園まで歩くことにします。
公園へ向かう途中、植え込みのそばに空き缶が落ちていました。一度通り過ぎましたが、帰り道でもそのままだったため、拾って近くのごみ箱へ捨てました。
翌日には、菓子の袋が落ちていました。その次の日は、たばこの箱です。
「どうせ歩くなら、袋でも持っていくか」
良一さんは、毎朝小さなごみ袋と火ばさみを持って歩くようになりました。特別な使命感があったわけではありません。目についたごみを拾えば、散歩にも目的ができると思っただけでした。
数日後、犬を連れた女性から声をかけられました。
「いつもキレイにしてくださって、ありがとうございます」
「いや、暇つぶしですよ」
そう答えながらも、良一さんは少し嬉しくなりました。
やがて、登校中の小学生が「おはようございます」と挨拶してくれるようになり、公園で体操をする人たちとも言葉を交わすようになりました。
雨の日には、窓の外を見ながら「今日は行けないな」と残念に思う自分がいました。以前は翌日の予定など気にしなかったのに、今では起床時間も自然と決まっています。
地域の清掃活動をしている男性から、「月に一度、一緒にやりませんか」と誘われたことをきっかけに、自治会の清掃にも参加するようになりました。そこでは、ごみを拾うだけでなく、一人暮らしの高齢者への声かけや、公園の設備に異常がないかを確認する役割もありました。
「私にも、できることがあるんですね」
良一さんがそう言うと、担当者は笑いました。
「毎回来てくれるだけで助かりますよ」
良一さんの一日の感じ方は大きく変わりました。
朝に外へ出れば、顔見知りに会う。清掃日には自分を待っている人がいる。帰宅後は康子さんに、その日あったことを話すようにもなりました。
「毎日やることがない」と悩んでいた良一さんの生活を変えたのは、高額な旅行や新しい趣味ではなく、ごみ袋を持って同じ道を歩くという小さな習慣でした。
老後の安心には、生活を支える資金が欠かせません。しかし自由な時間を充実させるには、金銭だけでなく、外へ出る理由や自分の役割も必要です。
無理なく続けられ、誰かと緩やかにつながれる習慣を持つことが、長い老後を自分らしく過ごすきっかけになるのかもしれません。
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