(※写真はイメージです/PIXTA)

経済的に余裕があれば、充実した老後を送れるとは限りません。仕事を離れたあとに役割や人とのつながりを失い、時間を持て余す人もいます。高齢期の生活では、お金だけでなく、毎日続けられる予定や、誰かと関わる機会を持つことも大切です。

以前は翌日の予定など気にしなかったが…見つけた“意外な習慣”

転機は、康子さんから言われた一言でした。

 

「最近、朝からずっと座っているでしょう。少し歩いてきたら?」

 

自分でも運動不足を感じていた良一さんは翌朝、近所の公園まで歩くことにします。

 

公園へ向かう途中、植え込みのそばに空き缶が落ちていました。一度通り過ぎましたが、帰り道でもそのままだったため、拾って近くのごみ箱へ捨てました。

 

翌日には、菓子の袋が落ちていました。その次の日は、たばこの箱です。

 

「どうせ歩くなら、袋でも持っていくか」

 

良一さんは、毎朝小さなごみ袋と火ばさみを持って歩くようになりました。特別な使命感があったわけではありません。目についたごみを拾えば、散歩にも目的ができると思っただけでした。

 

数日後、犬を連れた女性から声をかけられました。

 

「いつもキレイにしてくださって、ありがとうございます」

 

「いや、暇つぶしですよ」

 

そう答えながらも、良一さんは少し嬉しくなりました。

 

やがて、登校中の小学生が「おはようございます」と挨拶してくれるようになり、公園で体操をする人たちとも言葉を交わすようになりました。

 

雨の日には、窓の外を見ながら「今日は行けないな」と残念に思う自分がいました。以前は翌日の予定など気にしなかったのに、今では起床時間も自然と決まっています。

 

地域の清掃活動をしている男性から、「月に一度、一緒にやりませんか」と誘われたことをきっかけに、自治会の清掃にも参加するようになりました。そこでは、ごみを拾うだけでなく、一人暮らしの高齢者への声かけや、公園の設備に異常がないかを確認する役割もありました。

 

「私にも、できることがあるんですね」

 

良一さんがそう言うと、担当者は笑いました。

 

「毎回来てくれるだけで助かりますよ」

 

良一さんの一日の感じ方は大きく変わりました。

 

朝に外へ出れば、顔見知りに会う。清掃日には自分を待っている人がいる。帰宅後は康子さんに、その日あったことを話すようにもなりました。

 

「毎日やることがない」と悩んでいた良一さんの生活を変えたのは、高額な旅行や新しい趣味ではなく、ごみ袋を持って同じ道を歩くという小さな習慣でした。

 

老後の安心には、生活を支える資金が欠かせません。しかし自由な時間を充実させるには、金銭だけでなく、外へ出る理由や自分の役割も必要です。

 

無理なく続けられ、誰かと緩やかにつながれる習慣を持つことが、長い老後を自分らしく過ごすきっかけになるのかもしれません。

 

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