(※写真はイメージです/PIXTA)

資産形成や管理において、不動産や自社株などの「適正な価格が分かりにくい資産」を扱う場面では、税金に関するルールを正しく理解しておくことが不可欠です。今回は、親族間の紛争において「裁判上の和解」で決着した株式の売買価格が、後になって税務署から「安すぎる」と否認されてしまった最新の裁決事例(令和7年9月10日国税不服審判所裁決)を解説します。当事者同士が納得し、さらに裁判官も関与して決めた価格が、なぜ税務上は問題視されてしまったのでしょうか。

当事者の主張と審判所のジャッジ

姉妹側は、この税務署の処分に強く反発しました。姉妹側の主な主張は、「今回の価格は、激しい対立の中でギリギリの交渉をし、裁判官も交えて決定した経済的合理性のある価格である」「私たちは経営から排除されており会社への支配力が制限されているのだから、画一的な税務上のルール(同族株主向けの評価方式)を適用するのは実態に合わずおかしい」というものでした。

 

しかし、税金トラブルの審査を行う国税不服審判所は、税務署側の処分を適法とし、姉妹側の主張を退けました。 審判所は、税務上の「時価」とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する客観的な価格のことだと定義しました。その上で、今回の売買価格は「訴訟上の和解」という極めて限定的な個別事情のもと、同族関係者間という特殊な関係性の中で成立した価格に過ぎず、自由な市場価格とは言えないと判断したのです。

 

さらに、会社の経営状態や株主間の対立といった個別事情をすべてくみ取って評価を変えていては、評価する人によって結果が変わり、かえって課税の公平性を欠くことになると指摘しました。そのため、親族の持ち株割合などをもとに形式的かつ画一的に「時価」を算出する現在のルールは合理的であり、今回のケースにも適用されると結論づけました。

 

この判例が私たちの生活や資産形成に与える教訓は、「当事者間で納得した取引価格と、税務署が考える『時価』はまったく別物である」ということ。

 

世の中には、親から子へ事業を承継する目的で非上場企業の株式を引き継いだり、親族間で不動産などの資産を売買したりするケースが多く存在します。その際、「身内だから安く譲る」「お互い納得しているから」、あるいは今回の事例のように「弁護士を交えて裁判所で決めた和解結果だから」という理由だけで安易に売買価格を決めてしまうと、後から思わぬ「みなし譲渡課税」のペナルティを受ける危険性が潜んでいます。

 

税務署は、どのような背景があったとしても、「税法上のルールに則った客観的な価値」を基準に厳格な判断を下します。大切な資産をトラブルなく引き継ぎ、守っていくためには、法律上の当事者の合意だけで満足するのではなく、「税務上の適正価格(時価)はいくらになるのか」をあらかじめ税理士などの専門家に算定してもらい、税務リスクを完全に把握した上で取引を行うことが鉄則です。

 

[参考資料]

国税不服審判所(令和7年9月10日裁決)

 

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