(※写真はイメージです/PIXTA)

老後の住み替えや地方移住に、憧れを抱く人は少なくありません。自然に囲まれ、生活費を抑えながら穏やかに暮らす。そんな理想を描いても、実際には医療、交通、人間関係、住まいの維持費など、暮らして初めて見える現実があります。

「ここならゆっくり暮らせる」退職金で始めた移住生活

誠一さん(仮名・67歳)と妻の美代子さん(仮名・67歳)は、長年暮らした都市部のマンションを売却し、地方の海沿いの町へ移住しました。誠一さんは会社員として定年まで勤め上げ、退職金は約2,000万円。夫婦の年金は月26万円ほどありました。

 

「老後は人混みを離れて、景色のいい場所で暮らしたいね」

 

そう話し合っていた夫婦にとって、移住は長年の夢でした。駅からは少し離れているものの、広い庭があり、海まで歩いて行ける中古住宅を購入。都市部のマンションより価格は安く、「これなら退職金を残しながら暮らせる」と考えました。

 

移住直後は、毎日が新鮮でした。朝は海沿いを散歩し、庭で野菜を育て、近所の直売所で安い魚や野菜を買う。美代子さんも「空気が違うね」と笑っていました。

 

しかし数ヵ月が過ぎると、少しずつ不便さが目立つようになりました。買い物には車が必要で、病院も専門科となると隣町まで行かなければなりません。

 

内閣府『令和6年版高齢社会白書』では、高齢者が住まいや地域の環境として重視するものは「医療や介護サービスなどが受けやすいこと」が最も多く、「駅や商店街が近く、移動や買い物が便利にできること」が続きます。暮らし始めて初めて気づく「生活のしやすさ」は、多くの高齢者が重視するポイントでもあります。

 

誠一さんはまだ運転できましたが、夜道や雨の日の運転には不安を覚えるようになりました。

 

家にも想定外の出費がありました。築年数のある住宅だったため、給湯器の交換、屋根の補修、庭木の手入れなどが続きます。近所付き合いも、思っていたより濃いものでした。地域清掃や自治会の役割を断りにくく、都市部で暮らしていた頃とは違う気疲れがありました。

 

「思ったより、お金が残らないな」

 

通帳を見ながら、誠一さんは小さく息をつきました。理想の暮らしを手に入れたはずなのに、胸の奥には焦りが募っていました。

 

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