「このままでは老後が…」父が感じた焦りと不安
修一さん(仮名・63歳)は、地方の物流会社で働く会社員です。年収は約440万円。65歳までは今の会社で働く予定ですが、その後は再雇用で収入が下がる見込みです。
妻の美奈子さん(仮名・61歳)とは、築28年の持ち家で暮らしています。住宅ローンは完済していますが、外壁の修繕や給湯器の交換など、これから必要になりそうな支出は少なくありません。
同居している一人息子の健太さん(仮名)は40歳です。正社員として働いており、年収は約390万円。浪費家ではなく、車も持っていません。休日は自室で動画を見たり、ゲームをしたりして過ごすことが多く、家族との会話は多くありませんでした。
健太さんは、家に毎月2万円を入れていました。修一さん夫婦は長い間、それでよいと思ってきました。家族なのだから厳しく言う必要はない。息子も働いているのだから、そのうち自分で将来を考えるだろう。そう考えていたのです。
しかし、修一さんが60代に入ると、状況の見え方が変わりました。給与明細を見るたびに、定年後の収入減が現実味を帯びてきます。夫婦の年金見込額を確認すると、今と同じ生活はできないことも分かりました。
「俺たちはいつまで息子の生活費を補うんだろう」
ある夜、修一さんは妻にそうこぼしました。
美奈子さんは黙っていましたが、同じ不安を抱えていました。食費、光熱費、日用品。健太さんが家にいることで増える支出は、月2万円では収まりません。本人に悪気はなくても、結果として親が負担している状態でした。
決定的だったのは、給湯器の交換費用でした。見積額は約35万円。修一さんが「しばらく大きな出費は控えないとな」と言うと、健太さんは何気なく答えました。
「大変だね」
その一言に、修一さんは胸の奥がざわつきました。自分が使っている家の費用なのに、息子はどこか他人事のように見えてしまったのです。
数日後、修一さんは健太さんを食卓に呼びました。
「来月から、家に入れるお金を5万円にしてほしい」
健太さんは驚いた顔をしました。
「急に? 今まで2万円でいいって言ってたじゃん」
修一さんは一呼吸置いて、静かに答えました。
「追い出したいわけじゃない。ただ、自立してほしいだけなんだ」
内閣府『令和7年版 高齢社会白書』によると、65歳以上の者のいる世帯のうち20.2%が「親と未婚の子のみの世帯」です。実家暮らしそのものが問題なのではありません。しかし、親が高齢期に入ると、家計負担や将来の住まい、介護の問題が重なり、同居の意味は変わっていきます。
