「また来てね」…笑顔で手を振る孫に返事ができなかった
節子さん(仮名・70歳)は、夫を亡くしてから一人暮らしをしています。年金収入は月20万円ほど。貯蓄は約1,000万円ありますが、賃貸住宅の家賃や光熱費、医療費を払うと、毎月の余裕は多くありません。
一人娘の家族は新幹線で2時間ほどの距離に住んでいます。節子さんには小学生の孫が二人おり、以前は月に一度ほど会いに行っていました。孫たちは節子さんをよく慕い、駅まで迎えに来ると「ばぁば、来た」と駆け寄ってくれます。その瞬間だけは、節子さんも年齢や一人暮らしの寂しさを忘れられました。
ただ、訪問には思った以上にお金がかかりました。往復の交通費、孫への菓子や小さな土産、昼食代。娘夫婦に気を使わせたくないと、外食時には節子さんが支払うこともありました。一回の訪問で数万円が出ていくこともあります。
「かわいい孫に会うお金まで惜しむなんて」
節子さんは、そう考える自分を責めました。それでも通帳を見ると、不安は消えません。貯蓄1,000万円は大きな金額に見えますが、病気や介護、住まいの更新費用を考えると、簡単に使い切れるお金ではありませんでした。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得約11.8万円に対し、消費支出は約14.8万円となっており、平均で毎月約3.0万円の不足が生じています。
ある日、帰り際に孫が言いました。
「ばぁば、今度はいつ来る?」
節子さんは笑って「またすぐね」と答えようとしました。しかし、次に行ける日をすぐには約束できませんでした。交通費を考え、体力を考え、これからの生活費を考えると、言葉が詰まったのです。
節子さんが訪問を減らすと、娘は最初「体調が悪いの」と心配しました。節子さんは「少し疲れやすくなっただけ」と答えましたが、本当はお金の不安を言い出せませんでした。娘にも住宅ローンや教育費があるなか、親の交通費まで気にさせたくなかったのです。
