前回は、法人を利用した相続対策のスケジュール感について説明しました。今回は、突然の相続に備えてリスクを分散する方法について見ていきます。

複数年にわたる金銭債権の贈与を活用する

前回の続きです。いくら帳簿価格と相続税評価額の逆転が起こるとはいえ、「いつ相続が起きるかなんてわからないじゃないか」という意見も、もっともなことだと思います。そういう場合は、「建物の半分だけ法人化する」などでリスクを分散する方法もあります。

 

1階がテナントで2階以上が居住用の賃貸マンションになっている建物なら、賃料の高い1階だけを法人化し、2階以上は個人所有のままでいくなど、アレンジはいくらでも可能です。

 

しかし、この課題をもっとスマートに解決する方法もあります。それは贈与を使うことです。

 

まず前回例に挙げた法人では、現金が潤沢にはありませんので、当然、一括では建物代金を払えません。よって、支払いは長期の分割払いになります。すると、被相続人となる人の手元にはあとで代金を受け取る「未収金」という形の金銭債権が残ります。これを何とかすればいいわけです。

 

一番いいのは、金銭債権を、複数の相続人となる人や子の嫁、孫へ複数年にわたり贈与することです。贈与といっても動くのは債権だけなので、被相続人となる人に現金の出費は必要なく痛みはありません。法人から入ってくる予定のお金が、自分ではなく相続人となる人や子の嫁や孫にいくだけの話です。いわば、絵に描いた餅のようなものだといえるでしょう。

 

たとえば、相続人となる人の1人に310万円を贈与すると20万円(〈310万円-基礎控除110万円〉×贈与税率10%)の贈与税となります。5年続ければ贈与税100万円で移転された財産額は1550万円です。

 

さらにこれを3人に利用した場合、300万円の贈与税で4650万円の財産移転ができることになります。つまり、4650万円を1回で贈与するよりも安い金額で贈与でき、財産が減らせる計算になります。

 

法人は余裕がなければ、すぐに返済する必要はありません。あくまでも〝いつか〞余裕のできた時に返せばいいのです。ただ、何の対策もしない場合の相続税と、生前対策として贈与税を支払った場合の相続税との比較は忘れないようにしてください。

法人に赤字が出た時は「チャンス」だと考える

被相続人となる人の課税財産を減らすもう1つの解決策として、法人に欠損金が生じた時、または繰越欠損金があれば債権放棄という手もあります。会社を赤字にするのは、急な経費の支出がなくても、いくらでも操作可能なはずです。

 

たとえば、被相続人となる人以外の親族に役員報酬を支給して、繰越欠損金を作る方法があります。ただし、あまりに多額の役員報酬を払ってしまうと、もらった側の個人の所得税・住民税負担の問題が生じる恐れがありますので注意が必要です。

 

この、欠損金を作る最もシンプルな方法としては、法人が所有している賃貸物件を大規模修繕するなどして、その修繕費を経費にするのがいいのではないでしょうか。

 

つまり、建物の修繕費が多額にかかった場合は、大きなチャンスということです。

 

また築年数を経た物件であれば、大規模修繕をすることにより、物件そのものの収益をアップさせることにもつながりますので、不動産賃貸業をビジネスと考えるのであれば、あながち悪い選択でもありません。この繰越欠損金ができれば、被相続人となる人への返済額を一部免除として扱うことができます。

 

返済額が一部免除されても、被相続人となる人に新たな出費を強いるわけではなく、ただ返済されないだけなので痛みは少ないと思います。

 

一方の法人は、本来返済すべき借金を一部免除してもらったので、得をしたことになり「債務免除益」という利益が生じます。この債務免除益は課税の対象となりますが、これは先ほどの赤字と相殺してしまえば、実際の法人税の課税もなく、めでたしめでたしで済むというわけです。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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