今回は、円滑な相続を実現するためには「被相続人になる人」としてどんな姿勢が求められるのか、本連載の総括として考えていきます。

相続を円満にするなら「1人1社」が原則

本連載の最後に、「所有型法人にすれば円滑な財産分割ができ、納税もできて、理想的な相続が叶う」という総括を申し上げたいと思います。

 

筆者は「法人化する際は、株式は1人に集中させるべきだ」という持論を持っています。これは会社の経営権が分散するのを避けるためです。原則は1人につき1社が理想です。兄弟2人なら兄と弟にそれぞれ1社ずつ会社を持たせるのです。そうすれば、各人が自分の思うとおりに活用できる財産(会社)を手にできるので、いざ相続が起きても「あの土地がほしい」「この建物は要らない」など遺産分割でもめることはありません。

 

そもそも1人1社というのは、相続が発生する前に「こちらは長男の土地になる予定」「あちらは次男の土地になる予定」というふうに、遺産分割協議が完了しているのと同じことなのです。

 

ただ、会社などほしくないという相続人もいます。これまでの経験からすると、男性の相続人は概ね賃貸不動産をほしがりますが、女性の相続人は貰っても重荷に感じるだけのようで、あまり喜ばない人が多い印象です。実際の管理は管理会社に委託するにしても、「そろそろ修繕が必要」「修繕費に何千万円かかる」といった事柄を逐一考えなければならないのが、どうも女性は面倒くさいと感じるようです。

 

もちろん例外はあり、賃貸不動産業に商才を発揮する女性もいます。おそらく「女性は男性に比べて車の運転が苦手で、車庫入れを不得意とする人が多い」とされるのとよく似た〝一種の傾向〞なのだと思いますが・・・。

 

ただ「賃貸不動産などもらっても嬉しくない」という法定相続人がいる場合には、会社の役員にして、役員報酬として相応の現金を渡してあげるのがいいのではないでしょうか。

自分の財産の行く末は自分で決めるべきもの

遺産分割の内容については遺言書で指定しておくのが最も確実な方法ですが、遺言書についてはたくさん本が出版されていますから、あえて触れることはしません。ただ、筆者が「相続の真理」として考えているのは、結局のところ、財産というのは被相続人となる人のものだということです。

 

ですからその人が「自分が死んだあとの税金の話を今からしてほしくない」と考え、何もしないというのも、決して間違ってはいないのです。その考え方に正しい、正しくないなどといった判断はできません。財産はすべて被相続人となる人のものなのですから、当然です。

 

「それでは困る」と残される人がいっても、被相続人となる人が死ぬまでは、相続人としての権利は発生しないのでどうしようもありません。民法上でいえば推定相続人というものなのです。つまりは、推定されているにすぎないのです。極端な話、勘当されることもあるかもしれません。

 

筆者は今まで、資産家の方から「遺言をつくるにあたって、予めみんなの意見や希望を確認しておいた方がいいでしょうか?」といった相談を受けることも結構ありました。そんな時には、「あなたの財産のことですので、あなた1人で決めるべきです」とお伝えしています。誰が決めるべきかといえば、それはすべて本人が決めるべきなのです。

 

被相続人となる人は、自分がすべてを決めるという中で、もし家族を愛し、自分が亡くなった後でも、円満な生活をしてほしいと少しでも思っているのならば、残された家族の意を汲んで望むべき方法をとってほしいと思います。

 

その中の選択肢として、この連載ならびに著書に詳述した所有型法人のメソッドを加えていただき、それが役に立つ時がくれば、執筆の甲斐があるというものです。筆者は決して平和主義者ではありませんが、相続がうまくいってみなさんが笑顔になれるのであれば、一税理士として本望です。

本連載は、2011年8月29日刊行の書籍『相続財産は法人化で残しなさい』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産は法人化で残しなさい

相続財産は法人化で残しなさい

阿藤 芳明

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の税制は、今、法人の税負担を軽くして企業の動きを高め、その代わりに個人の資産家から税収を得る方向へ動き出しつつあります。まさに資産家いじめの税制が訪れようとしているのです。 そのような中、相続財産の中でも約…

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