「法人」をやめたくなったらどうすればいいのか
これまでの連載で、所有型法人の有効性をたくさん紹介してきました。「そんなにいいなら、やってみよう」と興味を持ってくださった方もおられると思います。
ただ、結局相続したあとに、相続人が「法人とのやりとりがあまり理解できないので、やめたい」ということが万が一にもでないとは限りません。そういう方のために、「法人をやめる時」のこともお伝えしておこうと思います。やめることはもちろん可能ですし、その方法が難しくないことがわかれば、さらに安心感を増して、法人化に踏み込めるのではないでしょうか。
法人化をやめるとして、その際に気になるのは、課税関係がどうなるのかでしょう。結論からいえば、会社を清算する際に大きな利益がでなければ、課税されることはありません。
本連載ならびに著書で勧めているのは、建物だけを法人に売却して法人化する方法です。土地をこれまでどおり個人所有のままにしておくのは、土地を法人に譲渡する際に多額の譲渡税がかかってしまう事態を避けるためです。
しかし、実際に相続が現実化した場合、相続税額の取得費加算の特例という譲渡税の優遇策を活用し、法人に土地を売却することもままあります。これについては、第11回の連載でも記述したので、ここでは詳細を繰り返すことはしません。
法人をやめる場合の手続き方法は2パターンある
さて、法人を解散・清算する手続きは、この法人が土地を所有しているか否かで大きく2つのパターンに分かれます。
●建物だけの場合(土地がない場合)
まず、建物だけの法人を考えてみます。この場合の手続きは至って簡単で、法人が個人から建物を取得した時の逆の過程を経ればいいだけです。個人が法人からその時点での帳簿価格で建物を買い戻せば、譲渡税は発生しません。
法人には建物以外に財産はないことが多いでしょうが、あったとしてもそれらの財産を分配する方法はあります。すべてを換金した上で、支払いが残っているものは支払いを済ませ、手元に残った現金を株主たちで分けるのです。
たとえば、100万円を出資して会社が利益を生み、その持ち分が500万円になったら、差額の400万円は出資者の配当になります。考えてみれば、儲かったわけですから課税されるのは当たり前といえば当たり前の話でしょう。もちろん、プラスアルファの財産など何もなければ、特段の課税はありません。
●土地がある場合
次に法人が土地を持っている場合、法人をやめるには建物だけでなく、この土地を含むすべての財産を換金、処分する必要があります。処分して出資額以上のプラスアルファの財産があれば、先のパターンと同じく分配します。
従って、土地があれば、この土地を売却処分することになりますが、この時の価格が帳簿価格以上なら売却益に対して法人税が課税されることになります。その上での清算手続きになります。
法人の実効税率が仮に約35%にまで引き下げられたとしても、個人の場合の譲渡税20%(長期保有を前提)よりかなり高い税率です。つまり、土地を譲渡することが前提であれば、明らかに個人所有より法人所有は税率面で不利になってしまうのです。
しかし、だからといって、法人化がすべて不利になるわけではありません。それなりの工夫をすれば解決不可能な問題ではないからです。
結局のところ問題なのは、土地を処分して売却益が生じると、その利益に対して法人税が課税されることです。だったら、その利益を超えるだけの経費が存在すればいいのではないでしょうか。利益が出なければ、実際の課税には至りません。
たとえば、役員への退職金を支払うのです。数人の役員がいれば、会社の清算によって全員が退職という事態になるわけで、役員全員に退職金を支払うことは可能です。
実務ではまとまった金額の経費として、この退職金の他になかなかよい方法は見当たりません。ただ、退職金なら何でもいいわけではないのです。過大な部分は経費として認められませんが、これまでどおり役員報酬とも連動しますので、事前の準備が大切です。
解散・清算は簡単だが、法人のメリットを再考する
さて、今説明したように、法人を解散・清算すること自体はさほど厄介な手間ではありません。清算時の法人税をある程度、回避することも可能です。
しかし、そもそも何のために法人化したのでしょう? 個人の不動産所得にまつわる数々の制限や、税制上不利な点を解決するためだったのではないのでしょうか? それを省みた時、相続人も法人化をやめるという選択そのものを再検討すべき点が多いと気付くのではないでしょうか。